他書に比較しFeynman物理学が圧倒的に優れている点は,物理学の直感的描像を明らかに描き出そうとしている点です.本質をよく解かっていない学者が書いた本は,数式や専門用語で誤魔化そうとするものだと思います.飛びっきりの切れ者そして柔らかい精神のFeynmanだからこそ,こうした直感描像のあぶり出しを見事に成し遂げたのだと思います.素晴らしい著書だと思います.けれど御注意!! 大学初年級程度の英語力をお持ちの方なら,邦訳版を読むことはあまりお薦めできません.日本語訳が死んでいます.Feynmanの活き活きとした語り口はLectures on Physicsでしか味わえません.本当にFeynmanが学生達に物理の心を伝えようという生きた情熱が伝わってきます.「原書を読むなんて・・・」って思われるかもしれませんが,Feynmanは全く難しい英語を使っていません.(おそらく受験英語よりずっと簡単) 文章にリズムがありますので,予想以上にドキドキしながら速く読めますし,英語力は飛躍的にアップする筈です.できるなら原書で,というのが私のお薦めです.
自分の心に残ったフレーズを<P>「このように我々の前にはたくさんの粒子があり、それが素材となって物質が構成されているようである。幸いなことには、それらの間の相互作用がそれぞれみな違うというわけではない。事実、粒子の間の相互作用は4種類に限られている。強いほうからいえば、核力、電気力、β崩壊相互作用、万有引力である。光子はすべての帯電粒子と関係があって、その間の相互作用の強さには1/137という数が出てくる。このカップリングの法則は詳しくわかっており、これがすなわち電磁量子力学である。万有引力はすべてのエネルギーと関係するが、そのカップリングは極端に弱く、電気のカップリングよりもずっと弱い。次にいわゆる弱崩壊―――ベータ崩壊というのがあって、それによって中性子!陽子と電子とニュートリノとに比較的ゆっくりと崩壊する。これの法則は一部分わかっているだけである。いわゆる強い相互作用、中間子-重粒子相互作用は、このスケールで1という強さであるが、その法則は全然わかっていない。もっとも、任意の反応においては、重粒子の数は変化しないという規則くらいはいくつかわかっている。<P> 今日、我々の物理学はこのようなおそるべき状態におかれているのである。要するにこういうことである。核の外のことについてはすっかりわかっていると思われる;核の中では量子力学が通用する―――これまでのところ量子力学の諸原理はうまくいかないことはない。我々の知識は、相対論的時空間という舞台におかれている;ことによると引力はこの時空間に内在するものであるかもし!い。宇宙がどのように始まったのか、我々は知らない。・・・」
世にある学生向けの物理学の教科書の中で最高の書だと思う.本著を熟読することで物理学の本質に触れることができる.ファインマンさんありがとう.