ラテンアメリカ文学の旗手である著者が、<BR>自身の知り合い等を集めて、<BR>物語についての討論を行ったもの。<BR>抽象的な論ばかりだけでなく、<BR>具体的な話を挙げて語られているため、<BR>いっそう興味を引かれることは間違いない。<BR>何よりガルシア・マルケスの発言が面白い。<BR>提起し、脱線し、突っ込み、まとめ…。<BR>いやはや、さすがと言うべきか。
キューバのシナリオ教室における、30分ドラマを造るワークショップの記録。ノーベル文学賞作家ガルシアマルケスがチューターとなり、素材となるシーンや、脚本家のプロットのアイデアから物語を組み立てていく。物語が面白くなるように、どんどん筋を作り変えていくプロセスが特に興味深かった。
本書は、10人近くのシナリオライターたちが集まったワークショップのテープ録音を起こして編集されたものであり、あたかもガルシア=マルケスを囲む輪の中に、読者である自分も身を置いているか如くの臨場感を味わうことができる。そして次に再読する機会を持つときには、「今度は自分も発言してやろう」という意欲が沸いてくることだろう(初読の際に発言できたという方は、もっとたくさん発言してみよう、あるいは、もっと深い発言をしてやろう、と思うことだろう)。<P>本書では、至るところにガルシア=マルケスの「創作箴言」が散りばめられているが、私が「確かに」と頷いたのは次の箇所(p.128)だ。<P>(オリジナルなアイデアは)誰でも思いつくわけじゃない。ただ、それだけではだめなんだ。・・・(というアイデアを思いついたけれども)そこから一歩踏み出せない人間もいる。また、そういうアイデアを思いついた時に、「これは完璧なアイデアだ。誰にも言わず、人と話し合ったりしないで、隠しておこう」と考えたとたんに、そのアイデアは死んでいくんだ。ここのようなワークショップは、そういう考えを持たない人間のためにあるんだからな。<P>また、340~342ページで彼が語っている、『百年の孤独』の中の「バナナ会社の大虐殺のエピソード」を巡る述懐についても、「なるほど」と思わされた。創作そのものとは直接は関係ないが、「歴史事実」「歴史叙述」とか「歴史教育」という概念は、それほど自明なものではないというところを経由して、「人々あるいは共同体の記憶とは何なのか、そして、その生成と保持のメカニズムとは?」という疑問にまで至った。<P>いずれにせよ、映像に限らず、創作なるものに関心ある全ての人たちの必読文献であろう。