いまでは物理学の伝説とも言える、古典物理学の袋小路を一気に解消させた「特殊相対性理論」が、無名の学究青年の手による、かくも平明で簡潔な論文の形で世界に表明されたという事を知り、言いようのない感動を覚えた。単なる物理の好事家にとって、天空の星のごとくに想像していた希代の天才アインシュタインの論文が、高等学校卒業、或いは、少なくとも大学教養課程程度の物理学と数学の知識されあれば、見事に構成された推理小説のごとく、一点の曇りなく読了出来る論文であった事を知り、言い知れぬ感動に浸った。この宇宙を神が創造されたのが真実だとすれば、この様に簡潔で明瞭な「美しい」論文によって、その真理を記述出来る事を確信させてくれる本です。
特殊相対論は、1)その前提となる観測事実が人々の直観とは異なること、2)にもかかわらずそれを説明する理論はきわめて明快であること、3)さらに理論から演繹される「予言」が自然の理解にとって極めて本質的なこと、等の点で驚くべき理論だと思います。本書は、アインシュタイン自身の論文にわが国での相対論の第一人者であった内山先生が懇切丁寧な説明をつけたもので、アインシュタインと意図したところをあいまいな点なく理解することができます。原論文発表以来100年近くたった今でも、その輝きはあせていないと感じられます。