この古典はミルの人間観、社会観が素晴らしく網羅された書物だと思う。彼の「女性の解放」や「功利主義論」なども優れた思想書だが、私の一押しはなんといってもこの「自由論」だ。第2章「思想及び言論の自由について」や3章「幸福の諸要素の一つとしての個性について」あたりには彼一流の雄弁な議論が披露されている。コントの独断やカーライルの英雄論に触れている所も友人としての思いやりだったのかもしれない。しかし彼はいたってシビアに権威や英雄や天才と社会との関係を論じる。ミルの個人主義は反官僚主義や人間精神に関する彼独自の豊富な分析に裏付けられていて本書は読み物としても面白い。また翻訳は古風な言い回しが目立つけれども著者の言わんとする思想をかなりよく伝える事に成功したものと思われる。本書は歴史的個人主義の雄弁さに胸を打たれる「偉大な論文(ハイエク)」であり、ミル自身が認める所では「私の書いた他のどれよりも長い生命を持ちそうに思われる」古典である。
あの「9・11」以来、「自由」を高らかに謳う潮流が世界的に見受けられた。それはもはや民主主義や社会主義というカテゴリーを超越した一つの時代的傾向ということができる。<P>しかし、「あのとき」からでさえ、世界的な情勢は全く予断を許さない状態が続いている。報道メディアではあまり取り上げられていないが、一つの国家に対する過度な内政干渉がそれにより拍車をかけているということをまず自覚しなくてはならない人間がもっと増えなくてはならないような気がする。<P>J.S.ミルは『自由論』において、慣習的なものによる支配を受けた感覚や思考から生み出された一つの「意見」は、おおよそ「半真理」である場合が多いと指摘、従ってあらゆる「反対意見の自由」は全く不可侵のものであると主張!し!ている。このことを踏まえたうえで、後半では国家における相互不可侵にも少し触れて、最終的に「自由」とは何かを論じているのが本書なのだ。<P>今こそ本書を手にとるべきである・・・・私はそう思ってやまない。