近年自己の判断基準のみで様々な行為を行う若者が急速に増えつつある。一般的な基準から言うと「なぜ?」と思われる理由で殺人や、マナー・ルールの違反といったことが平気で行われる。こうした問題を見据える上で本書は大いに参考になると思う。<P>本書はイギリスの社会の中心を担う人々が通うパブリックスクールでの教育の実体について紹介・解説したものだが、そこでは現代日本の教育とはまさに対称的な方針が貫かれている。「厳しい規律による自己否定徹底」。これは若者に「自由と自己表現」の場を与えようとする現代の日本の教育とは180度異なる。<P>子供への窮屈な圧迫が、子供の将来の可能性を摘み取ると考える日本人に対して、イギリス人は子供を大人になるための準備段階であるととらえ、社会㡊??生き抜く上で必要なことを叩き込むということを教育の中心に据えている。そしてパブリックスクールでは厳格なルールの下で「規律ある生活」のできる人間が育成され、そうした子供たちが英国で真に「自由」な社会を形作る「核」となっていったのである。<BR>初版は1949年の本書であるが、現代教育を再検討する上で、基準となるべき明確な真理が数多く盛り込まれている。
戦前の日本にも、落ち着いた生活や精神があったと感じることがある。いまでは死語のような「知識人」のことである。たとえば、慶応の塾長だった小泉信三氏などは、こうした雰囲気を著書の形でいまに伝えている。<P>そうした人々と似た雰囲気は、この本にもあり、共通しているのは、英国風ということなのかなと思う。ひところ流行だった英国ブームがただの憧れだとしても、戦前の知識人はもうすこし血肉になる共感の仕方をしたように思う。その根本がパブリックスクールにあったのかと目をひらかれたのが本書だった。
30年前、高校へ入学した時に教科書と一緒に強制的に買わされた。読みもせずにしばらく放ってあったが、偶然読み始めたらおもしろくて一気に読了した。<P>英国のエリート学校であるパブリックスクールでの生活を紹介した本である。英国の上流階級の教育理念がよくわかる。中に挿入されているエピソードがそれぞれすばらしい。<P>蝶の採集に出かけた師弟が出先で第一次大戦の勃発のニュースを聞き、その足で従軍志願する。二人が途中の郵便局でそれぞれの家に事情を説明する手紙を書きながら師が弟をそっとみると肩がわずかに震えている。その後一度だけ前線の塹壕で出会ったとき、弟の顔にはすでに少年の面影はなかった。結局弟は帰らず、師は片足を失って帰還する。弟の戦死を聞いた時、師は「英国に自転車が二台無駄になった」とやせ我慢を言う。<P>全編に流れる基調は「ノブレスオブリージュ」。平素優遇されている貴族階級は、国家の危機に際して先頭に立って死地に赴くのを当然とする考えである。古き良き英国の雰囲気を伝える好著である。人が生きてゆくのになにを大切にしなければならないかをわたしはこの本から教えられた。<P>これから世に出る若い人にぜひ読んでもらいたい一冊。