日本を代表する作曲家、教育者、文化人として活躍した芥川也寸志氏の名著。<P>題名こそ「音楽の基礎」だが、単なる入門書ではなく、専門家の鑑賞にも十二分に堪えうる。<P>一般に楽典といえば音符や表現記号が並べられ、それについての説明が長々と続くものだ。しかし、本書はそのような音楽的知識を厳密な理論に沿いながら提示するだけにとどまらず、さまざまな逸話を取り混ぜることで、読み物としての体裁も整えている。そして、何より優れているのは、筆者の達意の文章だ。<P>芥川龍之介の三男、というだけでは片付けられないその明晰な文体は、とかく難解と思われがちな音楽理論を平易に、しかし誤ることなく伝えることに成功している。<P>本書は、音楽理論書の最高峰であるとともに、間違いなく後世に残!べき教養書の一冊だろう。
好著。<P>まさに岩波新書らしいでき。興味を持った読者を「趣味程度」の域まで高めようとする著者、編集者の意図がひしひしと感じられる。年寄りの戯言を言わせてもらうのなら、「新書とはもともとこういうモノであった」。さらに「ジジイ」との批判を恐れずに言えば、「価値観の多様化」が言われ始めてから、「一流」の見極めが困難になり、さらに言えば「偽一流」が跋扈し、こういった「教養」書のレベルを下げてしまった。<P>本書は、もちろん上述のような「ジジイの懐古趣味」を満足させるだけではない。「音楽のプロ」とか「マニア」ではないが音楽が好きな人、つまり趣味で少々楽器をいじったり、あるいは音楽を聴くことが大好きな人に知識を与えてくれる。その知識の範囲も幅広く、歴史的な知識、楽典的な知識などなど。<P>但し、「学校」以外で音楽を学んだことのない人にはやや難しい部分もあるかもしれない。しかしわからないところはわからないままに、とにかく本書を通読してみて欲しい。「趣味」の音楽に「幅」が生まれるはずだ。読者に「いぶし銀の知識」を与えてくれる本だ。