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ユーゴスラヴィア現代史 ( 柴 宜弘 )

 複雑な民族構成を背景として激しい内戦が続いてきたユーゴスラヴィアの歴史をハプスブルク帝国時代から1996年に到るまで紹介しています。著者は日本ではもともとユーゴスラヴィアに対する関心が薄かったために、欧米のメディアの論調をそのまま受け取る姿勢が強かった、しかし欧米が主張したような「セルビア悪玉論」は果たして真実であろうか、と言うのが本書の一つの軸になります。<BR> 第2次世界大戦下でのパルチザンの戦いも、チトー率いる共産党が成長するまでは各々の民族がドイツ・イタリアと時には結んだりしながら互いに殺戮を行っていただけに過ぎないとのべ、その活躍の神話性を指摘します。<P> 一方で戦後チトーが推し進めた自主管理体制の限界をも指摘します。民族問題を解決したかに見えた74年憲法体制も実は問題を先延ばしにしたに過ぎないこと、しかしチトーの死語スロヴェニアやクロアチアから起こった独立の気運は抑圧されてきた民族感情の発露と言うよりは、西側と結びついて経済的先進地だった両共和国がさらなる自立性を求めたというのが真相であったと述べています。<P> ミロシェヴィッチ大統領が殺戮の主犯であったかのような報道もなされましたが、殺戮や集団レイプを行っていたのはムスリム、クロアチアも同じであるという指摘は重要です。西側諸国に近しいカトリック系クロアチアと湾岸戦争を受けてアラブ諸国への配慮から無視するわけにはいかないムスリム人に援助を行う一方で、正教会系のセルビアが悪玉に仕立て上げられた側面も見逃せないのです。<BR> 第1章に事実の羅列が多いことと、句読点の打ちすぎのために若干読みづらさもありますが、後半はかなり読ませます。民族紛争を単なる「民族」の問題と見ないことの重要性が浮かび上がります。

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