「屠場」は、いわゆる放送禁止用語の類に入る言葉です。マスコミでは「食肉解体場」などとごまかした言葉に置き換わります。その理由は、屠場が被差別部落の歴史と深いつながりがあるからなのですが、世間一般の感覚では、そのこと自体になんの疑問を持たないのが普通でしょう。<P>それは、屠場を紹介した本は少なく、また食肉工場というものも、表世界には登場することが少ないからです。鎌田氏はその「裏」世界をルポの対象に取り上げました。<P>私は、きっと鎌田氏のことだから、被差別部落との関連を中心に置いた重苦しいルポなのだろう、と思って読み始めました。ところが、むしろルポの中心になっているのは差別問題よりも、食肉解体という「産業」、そしてその周辺に成り立っている食肉の「文化」、ここで働く職人たちの「労働問題」などでした。<P>意外な印象でしたが、実は差別問題のルポを期待した時点で、私自身の中に「差別の精神」が存在していることに気付かされました。
魚市場の築地が有名な観光名所であるのに対して、東京食肉市場がマイナーなのは、品川駅の港南口という場所柄だけが理由ではないだろう。牛が天蓋付きのトラックに乗せて運び込まれ、食肉となって東京中に運ばれていく。周辺は積みおろしのおこぼれを狙うカラスが空を舞っている。<P>この本では、過酷な労働と差別に耐えながら食肉解体を仕事として来た人たちの苦労が語られている。自然発生的に発生した解体業の仕事も現在では東京都の職員として処遇されている。そこにいたる経緯と職人気質の人が語る仕事への愛着と自負を感じさせるエピソードが満載である。<BR>私たちが知らない食肉解体の世界を垣間見て、狂牛病を吹っ飛ばそう!
本書はまず、偏見を持たずに読んでもらいたいと思います。職人芸が冴える食品工場で働く人々の、ルポルタージュです。今までほとんど題材として取り上げられることがなかったと思います。<P>これから先も、一つの産業として普通に取り上げられることがないとすれば残念です。現在、狂牛病問題で揺れている社会で、生産現場と販売現場、それに消費者の声ばかりが聞こえてきます。加工現場の声が聞けないのは、そのことを象徴しているような気がします。<P>職人たちの仕事へのプライド、道具へのこだわり、仲間意識と競争意識など、こんな「仕事」もあるのか、と興味を持って読めました。