岩田靖夫といえば古代ギリシア哲学研究家として有名であり、近年レヴィナス関係の著作を多く上梓している。その岩田が岩波ジュニアからヨーロッパ哲学の入門書を出した。中高生を対象に書かれたものであろうが、スノッブな自称インテリたちにも読んでもらいたい一冊である。ヨーロッパ思想の二大源流、ヘレニズム(ギリシア哲学)とヘブライズム(ユダヤ・キリスト教)について、しっかりとしかもわかりやすく論じられている。全体の三分の二がこの二点の解説で占められている。やはりヨーロッパ精神史の根幹を成す部分であるから、詳述をと考えていたのだろう。中世、近現代の思想に関してはごく簡単に触れられているだけである。枚数の関係なのだろうが、残念である。レヴィナスやロールズといった、現代の倫理思想家の紹介は大変興味深いものである。
著者はギリシャ哲学を研究対象にしながら、問題意識は本書に代表されるように、現代に通底する問題系ヘレニズム思想、キリスト教思想という2大源流を機軸に現代のハイデガーとレヴィナスに架橋しながら、両源流の問題構成の現代性を描き出し、哲学的問題の普遍性を判りやすく説明している。本書の読者は高校生を想定していようが、決して高校生にのみ読まれるのは勿体ない。専門的な用語を極力排した文章で書かれた本書は、ヨーロッパ思想の源流を鮮やかに描き出しており、哲学史入門としても最適である。取り上げられなかった哲学者が不要というわけではないが、現代から見る限り、著者が詳細に扱った思想の流れは適切であろう。異論もあろうが、問題系を明確に描いた著者の力量に敬意を表したい。
雑誌などを読んでいて、自分が普段何気なく考えていることを、実に的確に表現してある文章に出会うことがあります。そんな時感動と憧れを持ってその人がどの様にしてそのような文章を書けるようになったのかと調べると、ほとんどといってよいほど、西洋思想が基礎になった教養を身につけているようです。勉強嫌いの私にはとてもつらいのですがこつこつやっていくしかないようです。この本は西洋的知の二本の土台として、ギリシャ哲学とキリスト教をあげ、実に明快に今私達が信じている思想が、どの様にして生まれてきたのかを説明しています。ギリシャ哲学でギリシャ悲劇に多くのページを割いているように、知識の説明ではなく知識を体験できるように書かれています。