「日本の少子化対策はことごとくツボを外している」というくだりが冒頭にあります。しかし、これだけでは、政府の政策にケチをつけているだけで、ちゃんとした問題提起になっていません。<P>政府が保育所増設政策をとっているのを税金の無駄遣いと言っているのですが、政府がそうしているのは、北欧など、少子化を克服した国をお手本にしてやっていること。なぜ政府がそうしているのかをもう少し考えて、それがなぜ日本ではワークしないのかをちゃんと論じないと意味がないでしょう。<P>政府の対応が間が抜けて見えるのは、著者と同様、保育支援は広い意味での女性の社会進出（待遇の男女平等性）を前提にしたものでないと、ほとんど意味がないということを無視しているからなのです。<BR>アメリカや北欧など、女性の社会的地位が比較的高い国では、出生率も比較的高いという事実がある。<P>女性の社会的地位そのものを向上せずに、保育所だけ増設しても本末転倒。<P>仕事をしても、男性のアシスタント的な仕事だけなら（金銭面をにさえ不自由がなければ）誰でも専業主婦になりたがる。しかし、専業主婦になっても、今の世の中、子育てにはお金がかかるからそんなに何人も生むわけじゃない。また、恵まれた専業主婦のポスト自体が限られてるからあぶれる人もいるし、保育所があろうと、子供を持つ女性が企業で働き続けるのには、周囲はまだまだ偏見の目で見る人も多く、結婚しても子供を生まない人もたくさんいる。会社でも家庭でも男女格差があるくらいなら、結婚せずに一人のほうがラクと思う人もいる。<P>要すれば、女性の社会的地位を向上せずに、保育所だけ増設しても、片手落ちなのです。<P>著者の小倉さんは学者の端くれなんだから、この辺りの分析はもう少し緻密にやってほしかったと思います。

　何故、日本で少子化、すなわち晩婚化が進行しているかが腑に落ちるように書いてあります。小倉先生は大学を５１歳で辞めたそうですが、このエッセイは、文筆業で生きていくという決意のためか、すごく読みやすく面白い。芸能、テレビネタ（梅宮アンナ、東京ラブストーリー、西村知美、岡田美里等）から「だめんずうぉーかー」主婦向け雑誌まで、身近な話題を元に世相を鋭く分析しており、この人は只者ではないな、と思ってしまう。２０～５０代の女性がクスクス笑って読んでしまうでしょう。<P>　私が特に笑ってしまったのは、「VERY」「STORY」という高級奥様雑誌の読み解き方で、「秋吉仁美さんの謎」では、その突込みの鋭さに笑い「新しい働き方」では「さらにその上に、働くことにお金を消費することが許される特等専業主婦がいるのである」という分析には唸ってしまった。<P>　小倉先生は、この本でフェミニズムを啓蒙はしない。けれど、この本を読むことで、女性は自分がどういう生き方を望むべきかを考えてしまうでしょう。