怖いというより、悲しく、悲しいというより、可哀相で切ない、そんな短編集です。ストーリーそのものは、面白いけどオチが予測できて、意外性は少ないかもしれません。しかし、それはさて置いても、文章表現の素晴らしさは十分に一読の価値ありです。「どうしたらこんな表現を思いつくのか」と溜息が出そうな描写の数々。鮮烈で個性的でありながら、誰もが思わず納得してしまう、瞬時に心臓にビシっと填まるような表現は、実に心地よいものがあります。文学的なのに堅苦しくなく、短編なのに濃密で、味わって読んでいると、案外時間がかかります。現代ではなかなか想像がつかないほど貧しい、明治時代後期の地方都市の日常は、懐かしいと共に残酷で、生きるためには形振り構わない、生物としての原型がある!ようで興味深いです。
岩井志麻子は土着的な閉塞感を書かせたら超一流である。<P>岡山弁で語られる陰惨な物語は、読む者の気を滅入らせること間違いなし。プロットとしては単純ながら至上の雰囲気作りで一気にのめり込んでしまった。この演出の妙こそ正にホラーだ。<P>恐怖の種明かしも、狂気なのかこの世ならざる者なのかはっきりとしないところがいい。その得体の知れなさが粘着質のような密度の濃い闇を更に重厚にしている。<P>この暗黒の世界にどっぷりと浸ってしまいそうな予感・・・・・・
最近聞く事の少なくなった「方言」その方言で昔話を語るかのように恐い話を続ける遊女。淡々と話を続ける遊女。その遊女の口を借りて「何者」かが話をしている・・・そんな不思議な雰囲気のなかで繰り広げられる話。読んでいて「恐い」というよりも「悲しい」話が続きますが一転して恐い話に変わります。最後の遊女の一言に思わず鳥肌が立ちました。