前作「パイロットフィッシュ」に続く待望の作品。<P>「憂鬱の中から立ち上がったアジアンタムだけが,生き残っていく」<BR>というモチーフに作者は再び哀切極まりない物語を構築した。<P>哀しく、愛しい。<BR>いい小説だ。
とても切ない物語でした。1日でどうしても読みきらねばならないほど、切ない物語でした。情感や会話の中にこもるぬくもりというのかとても美しい小説でした。涙もろいボクは少しウルッときました。<P>少し辛口に批評を。私が死んでも優しいままでいてと、彼女は訴えます。この言葉自体は泣かせる言葉なのですが、主人公がそれほどに優しい人物と、実感はできなかったんです。悪い男じゃなかったけど。過去と現在が交錯する展開の影響もあったのかもしれませんが、この男はいい奴だ、優しい奴だとぐっと実感させるところがあまりなかったように思うのです。男だからでしょうか。ニースに死ぬ間際の彼女を連れて行くことなどなかなかできないことです。「僕」を主語にする私小説の中で自分がいかにやさしい男かなんてエピソードを揚げていく展開など確かに鼻持ちならないところだけど、物語が良かっただけに、少し距離を置いて物語を眺めると、この「優しさ」という言葉がボクには浮いて感じてしまうのです。
読んで大泣きしました。<P>「土ふまずのような」と不思議な形容をされる葉子の透明さも<BR>葉子を看取る「僕」の優しさも<P>物語各所にリンクされる<BR>アジアンタム・赤い月・鳥の名前<BR>なにもかも<P>淡々としていて、それだからこそ胸をえぐられるような小説でした。