ローマ史のなかでもいわゆる五賢帝時代と呼ばれる最盛期を扱っている。歴史家ギボンが「人類が最も幸福であった時代」と評価しているこの時代を新しい視点から再検討している。<P>カエサル、アウグストゥスの帝国初期からカリグラ、ネロなどの暴君を輩出したユリウス・クラウディウス朝時代、そしてフラウティウス時代を鳥瞰してから、「五賢帝」であるネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスがそれぞれ検討されている。<P>ローマ皇帝は、名前から想像されるような西アジア・エジプトの王や中世期のヨーロッパの王とは違い、共和制ローマの伝統・諸制度との「妥協」の上に築かれた独特な性格を持つ「専制君主」であることがこの本を読むと分かる。<P>ローマ皇帝!、つねに共和制ローマからの伝統的な最高意思決定機関であり、支配階級であった元老院との関係に不断の緊張と腐心を強いられながら国政を執る存在であり「五賢帝」も例外でなかったことが明らかにされている。<P>反面、元来都市国家の制度であった元老院が、帝制時代になって制度を保ちながらその内容を変質させたことも重要である。元老院議員が属州総督や軍司令官を担当するようになったり、共和制以来の特権階級に独占から新たな出自身分のものが元老員議員として加わり元老院が「刷新」されて、大帝国を支える屋台骨として新たな役割を担う役割を勝ち得たことへの言及は、本書独自の視点とも言えるもので、とても興味深く読んだ。<P>ローマ史に新しい照明を当てる好著。
ローマの平和とたたえられるネルウァからマルクス・アウレリウスまでの五賢帝時代の陰の部分に焦点を当てた本書を読んで「私が思っていたローマの平和の姿がいかに間違っていたのか」ということを気づかされました。<BR>また、五賢帝時代の皇帝達は決して絶対的権力者ではなかっということなど当時のローマの詳しい政治の状況がわかって非常に参考になりました。
五賢帝ーこの言葉から通常想像されるイメージといえば、後継者にふさわしい者と養子縁組をなすことで次代の皇帝を決定し、平和で安定した政治体制を築きあげた令名なる皇帝たち、といったところである。 しかし、果たしてそれは本当なのか? このようなイメージは後世の歴史家たちが創り上げた幻想ではないのか?<P>実体のない養子縁組制、権力移行の際の政治不安定、それに伴う政敵の粛清、暴君としてのハドリアヌス帝、といった五賢帝のイメージとは全くかけ離れた事実を最近の研究成果も踏まえつつ本著は解き明かしてくれる。<P>あらゆる資料に基づき理由をあげつつ、五賢帝のイメージを突き崩す答えを導く様はまるで推理小説の謎解きをしてるようでもあり、ハラハラドキドキしながら次を読まずにはいられない作品である。