最初80年代後半に書かれた論考が編集されたのかと思ったがそうでもないらしい。だが、リヴァイヴァルとしての価値はあるかも。初めて上京してきた学生には是非おすすめ!
「おたく」と80年代の世相をめぐる評論集です。どれも扱われているネタ(ロリコンまんが、岡崎京子、宮崎勤、オウム、著者と同世代の評論家…)にさえ興味があれば、分析は一流のできなので、おもしろいと思います。当然、興味がなければ、つまらないです(自分にとっては「UWF」を主題とした章がそうでした)。<P>本書は、「おたく」文化が生まれる現場で仕事をしつづけてきた著者による回顧録です。ゆえに、この方面での最高水準の歴史的資料にもなります。そうした視点からみるならば、誰か他の人間が著者の体験談を聞き出し、そこからより「客観的」な80年代のサブカル論を書くべきだったのかもしれません。しかし、著者は現場にもっともコミットしていた当事者であるとともに、一級の傍観者・分析者・発言者でもあります。ゆえに、この本は現在のところ一番「正しい」「おたく」文化史の様相を呈しているとみてよいでしょう。それが、著者の本望ではないにしても。そして、「あとがき」にもあるように、これから別の観点からの「おたく」論が、本書のパワーを相対化するためにも書かれなければならないにせよ。
原題の「ぼくと宮崎勤の ’80年代」がすべてを物語っているのかな。著者が関わってきたエロ漫画本業界や広告代理店、マスメディアへの違和感を明確にしていきながら、80年代の失敗した無階級社会革命を暖かく検証する。消費社会や情報化は誰もが対等に自分探しに勤しむ期待を抱かせたが、そこで実現したものは知価による階級の再編成でしかなかった。過分な幻想を現実化しようとして行き過ぎた者達は反社会的犯罪者として抹殺される。物語を虚構の次元に押しとどめ、成熟不可能性にこだわる著者のスタンスがポストモダニズム+新自由主義に対する抗体として分厚い本書の一見脈絡のないエピソードに散りばめられている。個々の評価はともかく、検証に値する力作。(少し煩雑な印象があるので、評価は4.5)