本当に懇切丁寧な論文指南の書である。論文のテーマとなる問題提起から資料収集のための文献カードと研究カードの作成の重要性。カードの蓄積により論考が熟成していき、論文のアウトラインが自ずから浮き出してくること。この過程はパソコンを使う現代の論文作成にも、いまだ十分活用できる方法だろう。実際の文章の書き方、レトリック、文献の読み方、講演・講義での話し方まで説明してあるが、本書の第二の重点は「資料批判」ということに尽きる。カード作成による論文作成過程と資料批判は不可分な要素である。カードを丁寧に作成することによって正確な資料やアイデアが蓄積されていき、集まった資料やアイデアに対してみずから批判検討を加えて論文をより確かなものにしていくという「資料批判」の大切さが何よりも強調されている。日本人に馴染みの浅いレトリックに関する解説や、充実した付録も頼りになる、論文作成においてフル活用できる一冊である。
澤田昭夫氏の『論文の書き方』『論文のレトリック』は、同様の類の著作の中で、最も傑出した書物といってよいでしょう。これは、氏がロジックをきわめて大切にする方であると同時に知的に洗練されており、また該博な知識を保有されており、それらをベースに丁寧な仕事をされたという事情から発する魅力なのでしょう。文章の書き方や論文の書き方に関する書物はきわめて数多く出版されています。私が何年か前に調べたときには、およそ160冊ぐらい出てきました。その中から手当たり次第、片っ端から眼を通しましたが、この2冊は、どんな視点、またどんな立場の方にも大変に有益なものとして、最後まで残った書物です。「起承転結」を漢詩の作法(絶句形式)として論理の構成には向かないと主張されている点!ど、私のかねがねの主張とも一致するところが多く、論文や文章に関係するすべての方々に推薦いたします。
基本的に論文は構造が問題なのですが、今でもまともな論文の書けない学者や大学院生が多い中、20年以上も前に書かれたとは思えない、今でも十分に通用する論文の技法の本です。<BR>本書の文章はもちろんきちんと構造ができており、格調高い文章とあいまって、他の「論文マニュアル」とは明確に一線を画すものです。<P>元々社会科学からスタートされているためか、略語の使い方などが自然科学と多少違いがあり、戸惑うこともありましたが、論文やレポートを書く必要がある人にはとにかく一読を勧めます。