『日本書紀』『古事記』のいわゆる「記紀」の解説書から、邪馬台国の存在や大和朝廷の成立など古代日本史を扱った本は数多にあるが、とにかく基礎資料たる『日本書紀』を、全部読み通さなくても、せめて参照できるように手元において置かなければ正確な知識の習得はおぼつかない。講談社学術文庫のものは宇治谷孟氏による現代語訳で、文章がこなれて現代人が『日本書紀』を手に触れるのに打ってつけのハンディな文庫サイズの二巻本である。岩波文庫のものは原文版であるが、非常に詳細な注釈がついているので両者を併用すると便利かもしれない。日本古代史に関心がある人で、専門家や歴史愛好家の書いたものを読むだけで満足しているような人がいるが、まさに自分たちの歴史を学ぶのであるから、きちんと『古事記』『日本書紀』の原典に当たり、それから様々な関連書に目を通すという、まっとうな態度を心がけてこそ、正確な歴史認識を期すことができると思う。
古事記は読んだことがあっても、日本書紀を読んだ人はなかなかいないのではないだろうか?説話的おもしろさに富んでいる古事記に比べて、いかにも官選歴史書的な日本書紀は確かに初めは非常に取っつきにくい。特に、日本書紀(上)の初めにある神代の記述は、複数の似通った伝承をもれなく記載しようとしていて、ここであきらめてしまう人も多いのではないか?しかしながら、日本書紀は中国・朝鮮との国交などについて詳しい記載があり、古事記とは異なった視点から古代日本を眺めることができる。特に下巻は、古事記に記載のない持統朝までの詳細な記述があり、特に壬申の乱の項では天武側の動勢が生き生きと活写されている。是非一度、通読されることを推奨します。