外界という名の巨大なコインロッカーの破壊を企てるキクと、自分の根源となっている音を求めてもがくハシの姿が痛かった。コインロッカーから生まれるという十字架を背負う二人は特別な境遇のように感じていたが、次第にそうではないことを気付かせる。自分が目をそらしている外界とのズレまで浮き彫りにされていくのだ。この物語は、破壊へのエネルギーをはらんだ強烈な描写が血を沸き立たせる一方、得体の知れないそのエネルギーや主人公たちの叫び、あるいは炙り出された自分の脆弱な部分との格闘を迫る、私に過去最高の衝撃を与えた作品だ。
村上作品特有の、どろどろとした喉の奥に絡み付いてくるような文章はもちろん。この作品の評価すべきところは主人公2人の距離間でしょう。上下巻一気に読めば分かりますが、始めはキクとハシの描写が長く間隔を置いて書かれていますが、後半部分に向かっては互いの描写が知らず知らずの間に入れ替わり村上ワールドが広がっています。2人についての描写の間隔を詰めていくことで、そこに2人の距離感がリアルに生まれてくるのです。本当に、それに気がついたときは鳥肌が立つ勢いでした。「ライン」でのリレー式な描写も興味深いですが、『距離感』がこれほどリアルに浮き立たせるなんて本当に素晴らしいと思います。
コインロッカーに捨てられた二人の赤ん坊が拾われ、育っていくにつれて近未来的世界で起きる様々な出来事。「母なるものの喪失」そこから始まる彼らの冒険は現代の日本の小説の中でも異色の出来になっており、村上龍の最高傑作と言っても過言ではないとおもう。うん、たぶん結構かなり面白い。「本を読むのは好かん」と言う14歳がいたらまず本作を読んでみるといい。本作を面白く感じたら村上龍の他の本やエッセイを読み進めるなり自分で他の本を探すなりするといいとおもう。それで何か物足りなく感じたらジュネや谷崎などを読んでみると良い。