DNAの二重らせん構造が発見されてから半世紀、DNAという言葉はすっかり常識化している。<P>しかし、その構造を明かすためのワトソンとクリックという若い二人の科学者の厳しい努力は、あまり知られていないように思える。この本から、それがリアルに伝わってくる。<P>科学者仲間の協力だけでなく確執や嫉妬もすさまじい。彼らが、二重らせん構造をとらえるに至る過程でのポーリングとの先陣争いのつばぜり合いも熾烈である。そして、明らかになったDNA構造の分かりやすさと美しさがすばらしい。真理は、常に分かりやすく美しいものなようだ。<P>科学者になりたい若い人たちに、この本は必読だ。
DNAの構造を解き明かしたワトソン博士自身による当時の手記です.発見後まもなく書かれたということで,いわゆる回顧録とは異なって,当時の新鮮な熱気が伝わってきます.登場人物は,クリックは当然として,ブラック卿,ライナス・ポーリング,ケンドルー等々,ビッグネームばかり.しかし,ブラック卿とポーリングは別として,ワトソン・クリックだって当時は新米です.その新米たちが,いかに楽しそうに,また悩みながら研究をしていたかを生き生きと描いてあります.科学という普遍性や客観性を求められる仕事と,それに携わる人たちの個性や主観のぶつかりあいの対比が面白いです.僕が言うのはおこがましいのですが,本当によく書けている本です.これが文庫で読めるのは幸せです.