私は、戦記もの、特に近代の戦争の物語はあまり好きではありません。<BR>しかし、この物語はたくさんの人に読んで欲しいと思いました。<P>厳密に言えば、この物語は美しすぎるイミテーションかもしれません。<P>しかし、あの戦争に対して大した知識もなく意見もなく、ただ漠然と関わりたくない知りたくもないと、目と耳をふさいでいる私のような人間にとって、昭和という時代が、戦前と戦後で、まるで水と油のように自分の中で分かれてしまっている人間にとっては、それらをつなぎ私達の現在の生活が間違いなく起こったあの戦争の犠牲の上になりたっていることを実感させてくれる物語でした。<P>その感覚は、この物語の登場人物達が本当にあの戦争の中にに居たのではと思わせるほど実に生き生きと描かれている!こと、そして物語の終盤に主人公達と私達の時間が結び付けられることで成立するのですが、その感覚が生じた瞬間、私は彼らに怒られたような気がしました。<P>「俺達はやったぞ、お前は何をしてるんだ!」・・・・と(笑)<P>もちろん、残虐な描写や極端な考え方、突飛な話作りなど、この物語にも欠点はあります。しかし、彼らの鮮烈でひたむきな生き様と、清涼感さえ感じられるエンディングは一読千金の価値があると私は思います。<P>先頃亡くなった私の祖父も、南方で憲兵として従軍しました。<P>様々な戦争の話をしてくれましたが、強く印象に残るのは、ふとしたときに漏らした「俺はロクな死に方はしない・・・」という一言でした。<BR>この物語を、もう少し早く読んでいたら・・・今はそう思います。<P>あの戦争!亡くなった沢山の「伊507」の乗員と同じ魂を持った人々に・・・感謝と追悼の祈りを込めて・・・合掌。
私は,近年のハードカバー作品を敬遠する傾向にありました。<BR>やはり,それだけの金額を出し,買うことに抵抗を感じるほど,<BR>いい作品に出会えないでいたのでしょう。<BR>しかし,この作品は買うべきです。買って読むべきです。<P>私たちの世代(1970年代生まれ)は,”生身”で戦争を体験していません。<BR>本当の戦争の悲惨さなど全くわかっていないのかもしれません。<BR>この作品を通し,言葉では表せきれないほどのことを考え,感じました。<BR>同世代の人に是非読んでいただきたいです。
ハードカバー600ページ弱の上下2巻の大冊ながら、一気に読んでしまいました。日本人でもこんな冒険小説が書ける作家が居るんだ、と感心しきりです。従来の和製冒険小説は、大藪春彦の伝統か?一匹狼が主流であり、このような集団組織と個人の関わりの中で話が進んでいくのは、よほどの筆力と展望がないと出来ない仕事であり、それだけでも賞賛に値します。さらに、作者の深く強い思いいれが、こんこんとあふれ出てくる展開は、読む方にも居住まいを正させる何かがあります。「こんな我々を生き延びさせるために、皆は死んでいったのか?」という問いかけは、「いま我々は生きている。そして未来にその命をつなげることが出来た。それが大切なのかもしれない」という答えで、一応の救いが見えます。