百年も前の事件である切り裂きジャックに作者が挑んでいるが、推理小説のようにいろいろな登場人物に”疑い”が掛けられて、という訳ではない。どちらかというと、”刑事コロンボ”のように最初に犯人が読者に知らされるのである。違うのは作者が、当時は見過ごされた様々な証拠を、現代の法医学等の科学的な視点から再度検証し、そして全ての証拠が”犯人”に対して向いていることを証明しようとしている点だ。あたかも犯人逮捕後の裁判での証拠調べのようだ。<P>分析は、科学的な視点、”犯人”の精神的分析、歴史的な記録からの”犯人”の足取り分析等々について多面的に行われており、百年前の事件ではなく証拠も生々しい最近の事件について書いているような錯覚すら覚える。加えて、作者の緻密な表現塊??のために読むと目の前に惨状が広がるようで気分が悪くなるほどだ。<P>”本”としてページ数は多いが、引き込まれつつ最後まで一気に読んでしまう。切り裂きジャックについて、何の知識を持たない読者にも楽しめる作品であろう。
『ついに切り裂きジャックの正体を突き止めた!』 読んでいくうちに本当にこう唸りたくなるような本です。<BR>ヴィクトリア朝末期のロンドンで売春婦があいついで殺された切り裂きジャック事件。<BR>犯人はだれか?永遠の謎と言われていたこの問いに遂に終止符が打たれた。<BR>読み終わって本当にそう感じるくらいよく出来た理論構成です。<P>さすが7億円の巨費と現代科学を駆使しただけのことはあります。<BR>とにかく面白いです、この本は!!!<BR>切り裂きジャック事件に興味を持たれている方は必読です。<BR>「検視官」シリーズの著者、パトリシア・コーンウェルの情熱と気迫、執念が迷宮入りの難事件を解明したと言っても過言ではない力作です。
この手の犯罪ノンイクションは「FBI心理分析官」で懲りて以来、苦手で読みませんが、ファンであるコーンウエル作ということで手にとりました。検視や殺人現場の生々しい描写が苦手なのです。もちろんコーンウエル作品にはこうしたシーンが頻繁に出てきますが、それが過去の体験や取材に基づいたものであれ、作品自体がフィクションであるということがいくらかの慰めになります。しかし本作で描かれているのは、紛れも無い事実であり切り裂きジャックという人物が実在したこと、彼の犯したであろう罪の数々からは、彼自体というより人間そのものの存在を問うほど衝撃と戦慄を受けました。やはり自分にはこのジャンルの本は向かないようです。<P>とはいえ、コーンウエル歴代作品で見せたように最新の犯罪科学!駆使して、事実を客観的に分析し、仮説を立証しようとする様には、ついひきこまれてしまいます。また当時のイギリスを中心とした西ヨーロッパの文化の記述(かなりの労力をようしたと思われます)は新たな興味の対象を広げさせてくれます。ただし、年代や地名が相前後して記述されているので、イギリスの地理に疎いこともあって混乱してしまいます。年表や地図のようなものを付けてくれると有難かったように思います。<BR>コーンウエル作品としては異質ながらも、かといってコーンウエル・ファンを裏切らない作風となっていると思います。