多くの方々が語っているように、職を投げ打ってまで勤務先の実態を暴露した著者の勇気に、その内容に強い感銘を受けた。<P>ただ強く感じたのは、どうしてこうした外務省の実態がこれまで十分に国民に知らされてこなかったか、という問題である。一連の機密費疑惑や、その後の様々な外交上の失態によりようやく国民にも外務省という組織の内情が明らかになってきたわけであるが、逆に言えばそれまでは隠されていたことも意味する。<P>むしろ今後は、外務省の実態を報道してこなかったメディアの怠慢と、こうした事実を知った上で主権者としてどのような行動をとるべきかという私たち一人一人の国民の意識とが問われなければならないと思う。実態が隠され続けていたという事実は変えられないが、事実を知った上でこれからそれに対応した行動をとることはまだできるのだから。
本書は、レバノン大使を務め、対イラク戦争支持に反対を唱えたため、実質的に外務省を解雇された著者が、外務省のさまざまな問題を実体験を元に赤裸々に明らかにしたものである。<P>著者が直接知っている、現在の外務省幹部の実名を挙げての批判、著者の勤務地での経験など、その鮮明かつ迫力のある記述には、ただ圧倒される。ここに、国益を忘却し自らの利益と保身のみを考える「売国官僚」の姿が完膚なきまでに明らかにされている。<P>これであれば、いわゆる「暴露本」と変わりないが、本書のすばらしいところは、この病理の真の原因を明確に日本の政治体制としているところだ。それが副題の「小泉首相を許さない」とする意味である。<P>ここでは、政治家が国益を忘れ、自らの利権の保持のみに奔走し、その利権に預かるために「売国官僚」がうごめくという、わが国の最大の問題を指摘している。そしてそれは、著者によるあまりにも鮮明な事実に裏づけられているがゆえに、極めて説得力がある。<P>本書は、外務省の暗澹たる現状を、自らの職をかけて明らかにすることにより、その変革の唯一の可能性を政治の改革に求めた、渾身の問題提起の書である。そしてそれは単なる「外務省批判」を超えた、緊急の国民的課題なのである。
私は世の中に3種類の人間がいると思う。1つは道を探す冒険者、2つは道を造る開拓者、3つは道を舗装する権力者である。厚生省の異常な伝統(=風土)に異を唱えて「お役所の掟」などの著書で批判を始めた宮本政於氏と同様に、天木直人氏は外務省の異常な風土に道を探した冒険者だと思う。しかし、冒険者に道を造ることを要求するのは酷である。冒険者が指し示した獣道を踏み固めるのは、その道を利用する者達だからである。冒険者の目が捉えた事実の情報に価値があるのである。