第5話から8話まではサラエボが舞台になっている。一度でも鴨ちゃんの文章を読んだことのある方ならわかると思うが、彼ほど「書き込まない」書き手を<BR>見つけるのは困難だ。この本の体験と題材から、数百ページの本を書くことは<BR>プロならできるだろうし、むしろ書かずにはおれないだろう。<P>鴨ちゃんは書かない。身辺雑記であれば「ああ、作者は異様に語彙の不足した人だ」となってしまうところだが、戦場の描写ではこの書かなさ加減が逆に<BR>せつないようなリアリティを「鴨志田す」のが不思議だ。<BR>それにしても、鴨ちゃんは(別に知り合いでもないのに馴れ馴れしくてすみません)、虫みたいだ。そうしたいわけではなさそうなのに、不幸と哀しみの<P>方角に引き寄せられ、飛びついてしまう。それじゃあ、飲まずにはいられないでしょう。と、真剣に心配になるのはなぜだろう。<BR>鴨志田さん、「しなくてもよいことをしないことを、自分に許可する」ことを<BR>どうぞ試みてください。あなたの不幸だけではなく変容を読んでみたいと願う<BR>読者もいるのですよ。
鴨志田&西原コンビの、シリーズ最後の作品。<BR>本文はともかくとして、まえがきまんがと、あとがき文章(?)が、<BR>今までになく秀逸だと感じた。<BR>鴨志田氏の手を離した西原氏の心中が、うかがえるのも確かだが、<BR>あとがきにおける鴨志田氏の、余計なものがそぎ落とされたかのような文章に、これからの氏の作品を期待させるものがある。<P>コンビ解消は残念だが、ふたりそれぞれのこの先の作品から目が離せなくなりそうだ。