ワトソンとDNAの物語は、子供の頃からよく聞いてきた。<BR>遺伝情報に基づいてこの体はつくられ動いている。思考すらその支配を逃れられない。しかも、その情報を調べて手を加える術を手にしてしまった私たち。<BR>進化論をはるかに上回るインパクトをこの社会に与えた。<P>この本はそのワトソンさんが遺伝子診断や遺伝子組み換え植物などについて科学的な事実を紹介しながら、自分の考えを述べている。遺伝子治療は大金をはたきマスコミも踊ったわりには、何の治療効果もあげておらず害さえ与えてきた事実をちゃんと紹介している。こんなことをちゃんと紹介する情報は日本の浮かれマスコミに頼っている限り決して得ることはできない。この記述も含めて、後半部分は読む価値が高い。もちろん、クリティカルに、批判的に読んでみよう。
二重らせんの発見者ワトソンその人によるDNAの物語.前半は二重らせん構造の発見からヒューマンゲノムプロジェクトにいたるDNAについての研究歴史物語.同じ著者による「二重らせん」のときのような若々しさは無く枯れたなかにも味わいのある叙述です.<P>後半は遺伝子組み替え植物,DNA指紋,遺伝子療法などの現在のトピックを扱って,やはり抑えた科学者としての叙述.その中にもDNAというだけでどうしてこのように一般大衆から誤解されるのかという深い悲しみが伝わります.内容も中庸をおさえた中にしっかりとした中身があり類書のなかではまず客観的な真実が知りたい場合の啓蒙書としてはもっとも推薦できます.<BR>さらにちりばめられたイラスト,写真が群を抜いて高品質です.この手のものを見慣れている私ですらはっとするような写真,イラストがさりげなく挿入されていて,このイラストだけでもこの本の価格の半分の価値は十分あります.推薦.
分子生物学が20世紀後半の社会にどのような影響を及ぼし、それによって研究者や企業、われわれ市民の世界観・倫理観がどう変わったのかをDNAの二重らせん構造の発見者、ジェームス・ワトソン氏が説く。<P>自らの業績を誇示することなく、つまらないレトリックは避け、それでいてユーモアにあふれ、明晰で勢いあふれる文章に魅せられてしまった。回顧録でも論文でも教科書でもない、DNAをめぐるドキュメンタリー。ずばり、面白い。<P>専門用語は多いが、図表や写真でだいたいは理解できるし、理解できなくても読み進めることはできる。DNAの研究内容を詳細に紹介する本ではなく、もっとマクロの視点でDNAが人の社会に何をもたらしたのか―生物や臓器を改変し、巨万の富を生み、特許裁判を引き起こし、大学の役割を変えてしまった―半世紀の時間の歩みを俯瞰する。<P>ワトソン氏のこれまでの業績や発言に対してはさまざまな異論・反論があり、本書に書かれていることもすべて鵜呑みにできない気もするのだが、とにもかくにも長く現場に身を置いた人間が書いたものは理屈抜きに面白い。