中嶋陽子は、ごく普通の女子高生だった。<BR>クラスでは推薦されて委員長をやっていた。勉強も真面目にやった。<BR>親の言うことはなんでも聞き、友だちから頼まれれば断ることが出来ない。<BR>誰にとっても『いい子』だった。<P>彼女の髪は赤かった。先生や、友だちのはずのクラスメイトでさえも<P>「遊んでいる」「陰で何をしているかわかったもんじゃない」などと言っていた。<BR>『偽善者』めいた陽子のことを疎ましく思っていた人間も多くいた。<P> そんな陽子に、ある日「あちら」の世界から迎えが来た。<BR>能面のような顔をした男。男は陽子を主と呼んだ。<BR>長い金の髪をしたその男は、ケイキと名乗った。<P> それは、突然だった。陽子の都合も意志も全く構わずに―<P>といった感じで始まる主人公の長い苦難の物語。<BR>陽子は男(=ケイキ)によって十二国の世界へと喚ばれることになります。<BR>話が進むにつれ、ケイキの正体も明らかになるわけですが…。<P>「あちら」=十二国の世界へと渡ってからの陽子の苦難。<P>思わず先を読みたくなる展開、読者を喜ばせる結末。<BR>本当に語りたいことは語れませんが、とても面白い小説だと思います。<P>全く知らない世界でわけのわからないまま命を狙われ、飢餓に苦しみ、裏切りを受け、<BR>主人公の心は大きく揺れ動くことになるのですが、その辺りの心理描写の巧みさには脱帽しました。<P>裏切られ裏切られ、それを乗り越え成長していく主人公の強さ、また所々に見られる人間らしさに共感を覚えました。<P> ありきたりのお話に飽きた方も、ファンタジー小説に抵抗のある方も、騙されたと思って、是非一度手にとって読んで見て下さい。
陽子の異国での初めての友楽俊はなんと大きなネズミ。陽子の経験と共に十二国の世界が徐々に明らかになってきますが、卵果(卵から人が生まれる!)と半獣は秀逸です。人語を話す獣はありきたりに思えますが、取り巻く設定が差別に溢れる現代を思い出させ、飄々としている楽俊がかっこいい。<P> 楽俊については多くを語る必要はないと思いますが、その一語一語に「楽俊はすごい」とつぶやく陽子の心情に共感しました。延王尚隆・延麒六太が登場する後半は、五百年続く大国延の王と麒麟らしからぬ軽妙なやり取りがほっとさせ笑わせてくれます。ほんと好きです、この二人!<P> だだの女子高生だったとは思えないほど、成長していく陽子には違和感を感じなくもないですが、最後に選んだ道を思えば納得させられるかな。走り読みしたくなる展開ですが、心理描写をじっくり読んでください。
上巻でさんざん傷めつけられ、苦汁を飲んだ主人公・陽子。普通の高校生は、苦難をくぐり抜ける中で、蛹が蝶に脱皮するように思慮を深め、たくましくなりました。最後にやっと、納まるところに納まって、ほっとしたのを覚えています。でも、なぜかハッピーエンドという気がしなかったのは、一番のパートナーであるはずの景麒が余りにも出てこないままだったからだよな~。気になる続きは「風の万里黎明の空」で。「風の海」「東の海神」はその後でも大丈夫です。