よく、うつ病や自律神経失調症に関する本で、神経細胞とシナプスの図が載っていますが、何で神経細胞で電気信号として伝わる情報が、シナプスで神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン等)に役割が引き渡されて、また化学物質が神経細胞の受容体に取り込まれることによって電気信号に戻るのかという根本的な疑問(脳科学を知っている方には常識なのでしょうが)があったのですが、本書の前半部分を読んで氷解しました(要点は、食塩の組成物質であるナトリウムイオンと塩素イオンが絡んでいる、詳しくは本書を参照のこと)。<P>ざっと列挙すると、モノアミン、セロトニン、炭酸リチウム、ベンゾジアゼビン、ドーパミン、アセチルコリン、カフェイン、プロスタグランジン、アスピリン(ア!セチルサリチル酸)、メラトニンなどの脳内伝達物質や薬品や嗜好品に含まれている物質、アミノ酸、糖類、ミネラル、カプサイシンなどの栄養素が脳でどのようにふるまうのか詳しく解説されています。<P>同著者で同じくブルーバックスから出ている「脳の健康」と併読することをお勧めします。
タイトルは良くない(心をあやつる→本を手に取りたくなくなるようなマイナスイメージ)が、脳内物質に関する素晴らしい入門書だと思う。脳内伝達物質については、半信半疑な気分にさせられるものだが、治療薬と絡めて説明されると、説得力が増す。ホフマンという化学者が、リューマチに苦しむ父を救うため、サリチル酸を改良する研究に没頭、アスピリンを開発し「副作用なしに激痛から解放された」と父が大喜びするエピソード、仮説・実験・検証、薬が効く理由の明示などしっかり描かれている。読むに値する科学本である。欲をいえば、化学に縁遠い読者のために、本書を読むのを助けるような化学知識の付録があるとなお良い。最新の研究成果を取り入れて、時々改訂版を出してもらいたい。タイトルは「心をつくる物質」とか、素直なものの方が良いのでは。