後藤正治のスポーツノンフィクションはほとんど読んでいるつもりだが、私にとっての最高作は本書である。プロ野球のあるベテランスカウトの物語だ。<P>たとえば私が好きなのは、島根県の高校へある投手を見にいくシーン。投球練習を見たあとで、老スカウトは高校生にこう声をかける。<P>「(前略)カーブが決まるときはそう打たれんでしょう。この球でストライクが取れるようにすることだね。ボールをいつも手に握っていてね、馴染ませるんだ(後略)」<BR>しかし同行した著者に学校を出てから評価を問われると、「対象外です」と答える。そしてつづける。<P>「プロの素材としてはそうだということでね、高校生としては悪くない。山陰にもいい社会人のチームがあればいいんだけどね……」<P>“心底から野球を愛した男”といういい方では収まらない、若者への深い愛情を私は感じる。そして、その老スカウトの人間味を浮かび上がらせることに成功した著者の力量には、あらためて敬意を抱かざるを得ない。
木庭氏という素材がいいこともあるが、やはり著者のうまさが光る。他の作品も読んでみたいと思わせる書き手だ。
もう古い話になりましたが、カープの黄金時代を演出した人の一人でしょう。<BR>カープの黄金時代は根本陸夫氏をはじめとする縁の下の力持ちがたくさんいました。木庭氏もその一人です。衣笠氏への指導は独特でおもしろい。<BR>これからもプロ野球界に多くの名スカウトが生まれて欲しいです。