あまりにもおもしろくて、数時間で一気に読んでしまった。<P>低学歴の持ち主はかなり努力しないと上昇できない階級社会としての現代日本、そこで突破口を求めてあえぐ人々にスポットを当てているという意味では、高村薫の傑作、「レディジョーカー」を思わせる。<P>しかしこの作品の主人公は、男ばかり活躍する高村小説と異なり、夜間に弁当仕出し工場で働くパートのおばさん四人。彼女らがバラバラ殺人事件に手を染めていくまで過程、それぞれの生活の背景と心理的動機付けが、舌を巻くような力強い筆致で描かれている。<P>この小説の特徴となっているもう一つの軸は、主婦たちの犯罪の結果、誤って容疑者に上げられてしまうバカラ博打場のオーナー佐竹と、彼のほとんど求道的ともいえる性的歪みだ。佐竹は以前に女を拷問の上に殺して以来、正常な性交渉は営めなくなっている。自分に無関係な犯罪に巻き込まれ、築き上げたものをすべて失った彼の視線は、当然ながら主婦たちへの復讐に向かう。しかし、彼が真に望むのは、自分が以前に殺した女に酷似した主婦の雅子を強姦しながら切り刻むこと、快楽の中で彼女の死を共有すること。この辺りは一見、強引で難しい展開と思われるが、人物描写の見事さと、佐竹の深層心理のおもしろさで一気に読ませてしまう。<P>また、やはり弁当屋で働く日系ブラジル人宮森の孤独など、現代日本の暗い側面にスポットを当てているので、主人公雅子が最後にすべてを捨てて脱出【OUT】に成功するエンディングにも関わらず、読後感は重い。しかしすばらしく緻密な小説を堪能できた充実感は残る。<P>最後になるが、桐野夏生は、自分の頭で考え、足で立とうとあがくふつうの女を、尊厳ある存在としてかっこよく描く、ほとんど唯一の日本人作家のような気がする。同じ女として、拍手喝采を送らずにはいられない。
一気に読んでしまった。いわゆる「下層階級」の人たちを実に詳細に描写している。作者の取材力には敬服する。ただ、上巻でのスピード感やスリル、想像を超える展開にくらべるとラストは少し弱いかもしれない。それにしても作品全体の出来はすばらしいと思う。平凡な4人の主婦や「女衒」の佐竹が「毀れていく」さまは読んでいて大変面白い。
桐野夏生はこの「OUT」を読まないと語れないと知人が言っていただけあって読んでみるとそれなりの価値はある。何にしても奇抜な発想と構成力はなかなか。<P> 弁当工場のパート主婦弥生は、日々の鬱憤からとんだはずみで夫を殺してしまう。呆然と立ちつくした弥生は、同じ弁当工場で働く雅子に話し、死体処理をすることになる。同じく口実をつけながら2人のパート主婦が死体処理に加わった。<P> 4人の主婦の日常からのアウト。それなりにテンポも安定しているのだが、読み始めるとページをめくる手が止まらない。今年では伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」並だっただろうか。昨日から読み始め、そんなこんなで早くも上巻を読了。死体処理というのはそう簡単にはいかない。実際そうなのだが、展開の運び方が面白い。4人が分裂もし始め、警察には見つかり。<P> ストーリーの構成はよく考えられていると思う。ミステリーと言うよりは心理サスペンスのほうが分野としてはあっているだろうか。下巻も大いに期待できると思わせた。