1954年生まれの文学博士が、NHKフランス語会話テキストへの関与をきっかけに、2002年に著したフランス映画史の概説書。1894-95年に誕生した映画は、まもなく産業化され、1908-14年文学的特質をもった「映画芸術」として確立する。第一次大戦中にはアメリカ映画が台頭するものの、フランス印象派の下で映画批評が成立し、映画の内容よりも表現技法(形式)が重視される(アヴァンギャルドは物語性自体を否定)。1930年代のトーキー革命は、シナリオ優位の詩的レアリスムを発展させ、これがフランス映画の「良質の伝統」を形成した。これに対して反旗を翻したのが、1954年以降のヌーヴェル・ヴァーグである。ゴダールに代表されるカイエ派は、アメリカの娯楽映画を重視し、スタジオの職人による分業システムを否定し、どんな商業作品にも自分の刻印を示す「作家」としての映画監督を目指し、手持ちカメラ(技術革新!)・自然光・素人役者を用いた簡素で自由な映画制作を行い、スタジオシステムを破壊した(他方左岸派は、登場人物へのインタビュー形式を発展させた)。1968年の五月革命を経て、1980年代にはフランス映画は多様化の時代に突入し、ヌーヴェル・ヴァーグ、BBC(アメリカン・ニュー・シネマとフレンチ・コミックスの影響)、その他に分岐する。名作のみでない多様な作品にも目配りし、エピソードも多々交えた上で、フランス映画史の流れをこれだけ簡便にまとめてくれたことは、非常にありがたい。ただ、最後の「多様化」の内実がいまいち分かりにくかった。この点については、むしろ四方田犬彦『日本映画史100年』の方が、イメージがわきやすかった。日本映画史における弁士の役割や企業史への指摘と併せ、本書とともに併読されることをお薦めしたい。
いままでフランス映画史というものを系統的に扱っていた本はほとんどありませんでしたが、この本はコンパクトにフランス映画史についてまとめられているいい本だと思います。<P>この本が出るまでは、私は試行錯誤であらゆる本から情報を得ては、フランス映画を見続けてきました。まだまだ200本ほどしか見ていませんが、この本に紹介されているものは、ほとんど見ています。<P>個人的にはブニュエルの作品が大好きな私にとっては、なかなか楽しめました。しかし、この本の欠点をあえてあげるとすれば、収録作品が少ないことでしょうか?まだまだ他に面白いフランス映画はたくさんあります。<P>これからフランス映画を見てみようと言う人にはおすすめの一冊です。また、この本とあわせて、澁澤龍彦の「スク!ーンの夢魔」を読むと、さらに作品鑑賞の際の面白さが倍増すると思います。あわせて目を通してみてはいかがでしょうか?
シネフィル(特にフランス映画の)ならずとも、興味深い。ましてや、シネフィルならば現代までの作品を実に分かり易く、しかも映画ファンとしての興味も欠くことなく網羅された和書としては待望の1冊。次回は、あぶれてしまった作品・作家または俳優等についても、続刊を期待したい。分野別の分冊でも良いかも。