「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」。<BR>2つの世界は全く異質でありながら、2つの世界の物語は交錯していく。<P>「世界の終わり」からみると「ハードボイルド・ワンダーランド」は魅力的であり、<BR>「ハードボイルド・ワンダーランド」からみると「世界の終わり」は魅力的である。<P>どちらも、不完全でなにかが足りない世界。2つの夢のような世界には、現実であるかのような錯覚すら覚える。<BR>読み終えた時に、疲れとともに幸福を感じることのできる1冊である。
村上春樹は頭で考えたことを全部書いているのではないか?<BR>と思いながら読んでいます。こう書くと、とても個人的な内容なのではなか?と思われるかもしれないですが、不思議とそれを受け入れて読み、止まらなくなります。彼のそんなところが嫌いなのに好きなのかも。もう10年以上不思議と折に触れて読み返してしまいます。<P>2つのストーリーが交互に展開するという冒険的な試み、それが最後にどう結びつくのか、接点を見つけると単純にドキドキします。<BR>思いつきで書いてるんじゃない?と思ってしまうような、何気なく交わされる会話や思考が、三次元的に自分の中に広がるような瞬間があります。それに惹かれて、ずっと手放せないでいるのかも。
「ノルウェイの森」を読んでも、「国境の南、太陽の西」を読んでも大して面白いと思えなかったが、これだけは違った。今まで読んだ全ての本の中でも間違いなく5本の指に入るし、人に勧めたくなる作品だ。<P>私がどうしても村上作品を好きになれない要因である、女性との関係の描かれ方や、おしゃれすぎる飲食の情景でさえ、「世界の終わり」の幻想的な世界との対比によって、“日常”を構成する要素に見えてくる。<P>そして、物語の結末。<P>それまで、冒険活劇が繰り広げられてきた「ハードボイルドワンダーランド」の結末は、悲しくなるほど穏やかで内省的。主人公が手放さざるをえない“日常”を想ってなぜか涙が出た。<BR>もう一方の「世界の終わり」は、眠りから目覚めたような展開で、希望へとつながっていきそうな描写で終わる。<P>絶対に、読み終わってもすぐには現実世界に戻れず、深い余韻にゆっくり浸りたくなる1冊だ。