僕が初めて読んだ、村上春樹の本です。<BR>最初が紀行文ってのはちょっと変わった入り方かな?<BR>それまで、村上春樹については「ビーチボーイズ好きな小説家」くらいしか知らなかった。バックパックで旅をすることも好きなんだ。と、少し知識が増えたところで...。<P>この紀行文は、とっても読みやすい。すらすらと一晩で読めてしまいます。旅のしかたは、沢木耕太郎みたいな感じ。その国のことを知るために、(時には)無防備に文化の懐まで入っちゃう。その緊張感を、様々なエピソードを通じて臨場感たっぷりに伝えてくれます。<P>だけど、沢木耕太郎と違うのは、本気で紀行文として完成させようとしていないこと。順を追っていないし(憶えていなかった場所は無視しちゃうのかな?)、エッセイの集まりみたいに感じてしまう。<BR>それひとつひとつは、本当に面白いんだけれども...。
村上春樹が、この紀行文を出版したのが、1990年。現在は、2003年。トルコと日本は、2002年韓国・日本共同開催のサッカーワールドカップの決勝ラウンド第1戦で対戦して、日本が敗れている。彼が、この文章を書いたとき、そのようなこたは想像だにしなかったろう。彼は、こう書き出している。<P> 「トルコは兵隊の多い国である」<P>第2次世界大戦後、日本には兵士はいなくなった。敗戦直前、本土決戦、いってみれば日本人はみな兵士だったのに……。敗戦後、何十年も経って日本の人気作家が、創作に疲れて訪れた土地で見たものは、けして見ることのできなかった兵士だった。<P>イランとの国境近くで彼は、検問にあった。彼を検問してきたのはクールでそつのない、いわゆる西欧の兵士ではなかった。彼らの、その純真な目に触れて、彼は、不思議な親近感を感じる。彼が、その後「ねじまき鳥のクロニクル」で、ノモンハンの戦いを描いたことを思うと、このときの感慨も肯ける。<P> 「彼らはアジアの兵隊だった」<P> 「彼らはどこにでもいる普通の田舎の青年たちなのだ。かつて日本の旧軍隊を支えたのと同じ層の青年たちなのだ。」
アトスやトルコ紀行に関してのぴか一の紀行文です。特にトルコ人を端的に説明している下りは笑えます。写真集も出ていますので、併せて見ると楽しいと思います。