先生の「過去」に迫る主人公の「私」。物語の前半ではどうにか先生から「過去」を聞き出し、先生の心を知りたいと願う私が、先生の生活を観察し、奥さんに尋ねます。<P>先生は私に全てを告白した後でも、妻には知らせたくない、と公表を拒みます。しかし奥さんは全て知っていたのではないでしょうか? それは前半の奥さんのさりげない言葉、まだお嬢さんだった頃の先生とKへの表情のあちこちに見え隠れします。<P> 先生とKの運命を変えてしまった奥さんの本当の「こころ」。そんな尺度で物語を見つめ直すと意外な真実が浮かび上がってくるような気がします。<BR> 授業で教わった時は気づかなかった大人の女の視線に、私もやっと近づけたのかも知れません。<BR>「一度読んだ」人も再読をお勧めします。きっと今度は全く違う物語として読めるはず。
実のところ漱石を読んだことなどなかったが、高校の授業で全員が読まされて<BR>読んだという作品です。<BR>漱石の作品としては文体なども現代的で非常に読みやすい部類に入ると思い<BR>ます。そして、少し暗いけれど、なぜだかたいへん面白く読めます。<BR>タイトルからすると、難しくて読みにくそうな印象をうけますが、実際は<P>すらすら読み勧められるので、漱石入門にはかえってこの本がいいかもしれ<BR>ません。
男女の三角関係の話のようですが、行き着くところが同性愛になってしまうので、漱石は未完のまま終わらせた、という説もありましたが、それくらい多読に耐え、そのたびに読者に多様な解釈を許す、まさに小説の王道を行く日本文学の最高傑作のひとつです。漱石の人間観察、自己観察の鋭い視線に感嘆するばかり。