今西刑事の犯人を捕らえるために為す精神の疲労、強靭さ、丹念な物品、状況からの洞察、また彼が送る妻、子との素朴な生活、後輩刑事への配慮がとつとつと描かれ、人間的魅力を感じる。謎の多いストーリーだが今西刑事の人間性に惹かれる部分も読み進める際の加速の要素だった。また何よりも犯人へと焦点を絞るうちに明かされていく過去の記録、記憶、現代の起きてしまった忌まわしい罪の周辺、手口。今西刑事は何故、事件が起きてしまったかという部分にたどり着く。犯人は異常者ではない。彼の栄光をつかみ取るかに見える中では彼の過去は社会のタブーなのか?偏見ですまないのか?この犯人を憎みきる読者はいるのだろうか?犯人の罪を犯す直前の立場や状況を考えると言いようのない人間の闇、社会の暗いよどみ、彼の長くたどってきた道、抱えた思いを想像してしまう。読後、思わずそういう気持ちになる。
ハンセン病といわれても、今はピンとこない。<BR>ただ当時のハンセン氏病の患者が、人権を無視されていたということは、<BR>新聞などのメディアを通じて知っている。<BR>もし、家族にハンセン氏病の患者がいたら…いざ自分に和賀の環境を重ねてみると、<BR>地位も名誉も得た和賀が血眼になって過去を消そうとする姿には、同情さえ覚える。<P>下巻では、今西が犯人を追い詰めていく過程が鮮やかに描かれていく。<BR>殺人は完璧なはずだった。けれど、偶然や些細な事がきっかけとなり、<BR>どんどん和賀は窮地へと追い込まれていく。<P>千載一遇のチャンスを次々と手に入れ、現大臣の娘との婚約・アメリカへの招待…和賀の将来に影など存在しないはずだった。<P>けれど、彼の幸せは罪のない人間の死の上に成り立っている。和賀が最後に笑えるはずもない。<P>所詮、人は自分の運命には逆らうことができないのだろうか…<BR>薄氷を踏む和賀の背中を見せ付けられて、不意に思った。
加藤剛主演で映画化された作品を学生時代に見ておりとてもなつかしく、再び購入して再読しました。<BR>後半の謎解きは文学生が低くなるものの、ハンセン病や社会の差別があったことを考える良い機会になりました。風化しない作品とはこのような作品でしょう。「白い巨塔」といい昔は問題を提起する素晴らしい作品があったとつくづく考えさせられました。<P>清張作品でもベスト3に入る作品だと思います。