いろんな読み方ができる本だと思います。医療の問題や青年の成長物語、教育とは?とか、江戸人情ものとしても一級品ですね。もっか山本周五郎道にはまっっているワタクシとしては作者の代表的現代劇「青べか物語」や「季節のない街」の登場人物たちがちらついてなりませんでした。作者のテーマとして大きな柱の一つである「貧乏」で「無知蒙昧」でしょうもない庶民たち。作者自身も(そして読者である我々も)塩や醤油を借りあいながら陰口たたき合いながら生きていくこんな人たちの一部であり、両現代作品で冷静に見つめていた視線を時代小説に移し、それを肯定するでもなく否定するでもなくやむにやまれぬ気持ちが形作ったものが新出去定像ではないか、やるせなさを吐露して見せたのではないか、そんな気がするのでした。それはそれとしておもしろく読めます。
「山本周五郎小説」は他の小説にない物がある。それは人の心を打つということであろう。それは、どうしてか解らないが、とにかく心を打つ小説である。
時代物苦手な方でも、入り込んでいき易いと思います。山本周五郎の作品の中でも、好きな作品です。長すぎず短すぎない量で、途中で飽きずに読み終えることができます。<BR>時代物好きの方には少々物足りないかもしれません。