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町奉行日記 ( 山本 周五郎 )

山本周五郎は当然時代小説なのだが、登場人物は現代的、少なくともワシらの親ぐらいの高度成長期、晩年の小津映画や植木等ものに通じる日本社会の秩序と義務感とモラルをキチンと背負った現代人を封建社会の枠組みの中で自在に動かしている事に魅力がある。というか、藩やお上や親方を会社・地域社会・家庭に置き換えると登場人物たちがリアルに迫ってくる。日本がまだちゃんと機能していた時代の大人たちの気持ち・悩みとしてむしろ、大正・昭和ぐらいの時代を感じるのはわたくしだけだろうか。そんなわけで、武芸の達人や豪傑・ヒーローはでてこないのだけれど、だけにエンパシーは深い。<P>ワタクシがおすすめしたい「落ち梅記」はこの短編集の中程に出てくる目立たない作品だが、青年時代からの決別と㡊??うか、大人になる事の喪失感をバックテーマにした美しい短編だ。あらすじを書くと長くなるので省略するが、登場人物、その相関関係、積み上げていくエピソードそして手鏡や梅の実一個にいたるあらゆる道具立て全てが完璧に美しく配置されている。この雰囲気は江戸時代というより大正ロマンの城下町がふさわしい。惜しむらくは主人公の金之助がお人好しにも程がある!ということだが、この無理を江戸の封建時代に設定を置く事で解消している。エンディングも見事!裁きをする側・される側に分かれた親友同士の結末はどう決めてもしこりが残ったであろう。ここを雨中を立ち去るヒロインの後ろ姿に落ちる梅の音(これは主人公の連想)になぞえて「……あの時も雨が降っていた」と結ぶこの余韻の深さ!評論家めい!た分析をしてしまったけど、ワタクシは本当に感動した

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