本書は、「ローマ人の物語」シリーズの文庫本の第二巻で、共和政下の紀元前五世紀頃からイタリア半島の初めての統一に至るまでが描かれている。<P>あれほどの長きにわたり繁栄を誇ったローマであっても統一にいたるまでの道のりは平坦ではなかった。BC321年にはケルト民族により一時全ての領地を占領される「カウディウムの屈辱」という経験もしている。もちろんこの頃戦闘に連戦連敗という状況だったわけではないが、著者<P>が言うように「ローマ人は勝戦よりも敗戦を長く覚えている民族だった」という部分でこの敗戦をも糧にして統一に向かって行くさまが描かれている。
「ローマは一日にして成らず」はローマが建国された紀元前8世紀から、イタリア半島を統一した紀元前3世紀までの約500年間が描かれている。<P>ただ歴史を追うのではなく、「ローマ人」というものをテーマにしているだけあって、ローマ人の性向や考え方などがよく理解できる。<BR>ローマ人像が生き生きと浮かんでくる。
職業柄、少し違った見方を。<BR>企業の種々のマネジメント・システムを勉強していると、基本的なところで東洋的なものと西洋的なものの違いを思い知らされる。西洋の論理的合理性を追究するシステム思考に対して、東洋の人格人徳が仕事をする人治主義的思考。<BR>たとえば、医療現場でもシステム思考を追究する西洋と、お医者様は偉い先生様だから間違いは起こさない、疑ったりしちゃ罰が当たると考える東洋。だから組織に不祥事が起こればシステムを直す西洋に対して、不祥事はそれを起こした人が悪いのだから人の首をすげ替えて済ましてしまう東洋。あまり適切な例ではなかったかも知れないが、少し大袈裟に誇張して表現するとこのような違いがある。<BR>この合理的システム思考の源はどこから発するのかと考えていたが、このローマ人の物語にひとつの答がある。<P>元老員と執政官の関係、更にふたりの執政官とその弱点を補う独裁官の誕生、そして護民官の発生過程などを見ていると、システムの国であることがよく分かる。特にこの第2巻がその中心である。<BR>自国の発展を願って種々のシステムを考案し、基本的にこのシステムを守ろうとする。何か問題が発生すればシステムを破るのではなく、システムを再検討して新たなシステムに進化させる。ここにシステム三原則(設定 → 厳守 → 進化)が明確に見て取れる。もちろんひとつひとつを見ればきれい事ばかりでは済んでいないのだろうが。<BR>このようにシステマティックに思考することは、ある程度それを守りきる市民の意思が必要だが、権力はあくまでも人に所属してしまう日本ではまず考えられない。<BR>そのようなことまで考えてしまうほど、奥の深い著述である。