天才戦術家でありながら、祖国の支援も武将にも恵まれなく孤独に戦い続けたハンニバル。多くの熱狂的志願兵を集め、将軍たちと友情に結ばれたスキピオ。二人の英雄がついに雌雄を決する時が来た。北アフリカはザマの戦い。ハンニバルは勝てない事を知っていたのではないだろうか?祖国にいいように使われるハンニバル。しかし、それでも戦いに望む彼に、ふと楠正成を重ねてしまった。決戦前の会談など知られざるエピソードも加えたハンニバル最後の戦い。
本巻は、「ローマ人の物語」シリーズ文庫版第五巻、紀元前二世紀の<BR>ローマとカルタゴの戦い、ポエニ戦役の終盤を描いている。<P>前の巻で鮮やかな戦略と戦術により時のローマを脅かしたハンニバルだったが、今回はローマの若い武将スキピオに追い詰められ、ついに敗れてしまう。この二人が剣を交わしたザマの会戦で紹介されているエピソードで、スキピオが一度捕らえたハンニバル側の斥候を殺してしまうのではなく、自軍の情報をくまなく知らせた上でハンニバルの下に戻し、ハンニバルはそのメッセージを受け、有利に戦いを進めることができたにも関わらず、スキピオと直接の会談を申し入れる、というものがある。当然、自軍の情報を知らせてしまうことは不利になるのは分かっていながら、スキピオは自分!が投げかけたメッセージに対して、ハンニバルがどう対応をするかを予測できていたからこそ、こうした大胆な行動がとれたのであろう。<P>この辺の二人の希代の武将の駆け引きは見ごたえがある。一方が圧倒的に劣っていたのではなりたたない戦い。お互いの知力が拮抗し、お互いを知り尽くしていたこそ生まれた場面。交渉相手と中々心が通じ合わず<BR>に四苦八苦した自分の経験に照らし合わせたりしながら、うらやましく思ったりも。戦いながらも、彼らはその時間をお互いに楽しんでいたのでは?
歴史の知識として二人の戦いの結末を知っていながら興奮した。そして、改めて歴史ってドラマだなと思った。二人の天才が作り出した、最高の物語。ハンニバルのアルプス超え、スキピオの台頭、ザマの戦いの前のスキピオとハンニバルの会談。作り物が陳腐に思えるほど、名シーン、名セリフがたくさんあった。映像化したら、良質な映画が出来ると思ったのは、僕だけでしょうか。<BR> 塩野さん自身も述べられていたが、二人の天才が合間見えることって奇跡なんですね。ハンニバルの軍事的才能と、スキピオの人間的な魅力。これが結果的にダイナミックに歴史を動かした。歴史が英雄を生み出したのか。英雄が歴史を生み出すのか。そんなことを考えながら、カエサルの章を読んでみようと思う。