毎日のように「事件」は起こり、そしていつの間にか人々の記憶の片隅に追いやられていく。この本はそんな一時は大きな話題となったが、もう忘れ去られようとしている十の「事件」のその裏側での決して語られることのない事実を赤裸々に著した一冊だ。地の底を這うような警察官たちの捜査の話を読むと、人間の底力のようなものを感じることが出来て、感動的でさえある。惜しむらくは、文字数が足りないせいなのか、話の繋がりがややわかりづらくなってしまっていること。その点だけが残念だ。<P>マス・メディアには書かれない事件の裏側の人間の息遣いを感じてください。
国松長官狙撃事件、金大中拉致事件、中川一郎縊死事件など、いまだ解明されざる謎の多い事件について、ファイルを紐解く形式でその裏面に迫ったノンフィクションの文庫化。<P> 本書においては、それぞれの事件において、徐々に明らかになる真実と、いまだ明らかにならざる真相を目の前に、決断を迫られて男たちがどのような決断を下したか、というストーリーが赤裸々に記述される。迫力があり、直接話法を多用した文体は、臨場感満点で、自分がその場にいるような錯覚を与えるとともに、テーマになっている事件について表層的に見ていたのでは分からない裏面の姿と、その中で、匿名であることを強いられつつひたすらに努力する人間の姿をまざまざと映し出す。<P> そういう意味において、非常に面白く刺!激的なノンフィクションなのであるが、よく読むと、ほとんどの「ファイル」は、警察が作成したファイルであり、作者はこれにほぼ完全に依存して記述していることが分かる。そう、これは、少ない例外を除いて、警察の現場がいかに泥を食んでがんばったか、という警察美化のルポルタージュである。そのことに対する評価は措いておくが、筆者のスタンスはそういうものではないか、と思いながら読む必要はあると言えるかもしれない。