数学者の伝記にして、あまりに文学的な作品でした。公式のたぐいは出てこないし、読み進めるだけで数学の奥深さにふれることが出来そうです。数学は西洋だけの物ではないと言うことがラマヌジャンの話から分かります。また、宗教が科学の発達を阻害していた事実には驚かされます。ひらめきのない自分にとって、ひらめくことの出来る人が本当に羨ましくなりました。
天才数学者の頭脳を特殊とするのではなく、育った環境から天才が生まれる事を必然として述べる作者の論理に感動しました。勉学だけでなく神への信仰が加わり天才となるというのは、天然への畏敬の念を失いつつある21世紀において、本当に夢のある物語です。多くの友人から助けられたというラマヌジャンの伝記は、天才は親や学校だけでなく社会全体が作るものであることを教えます。このちっぽけな自分でさへ責任ある行動をせねば、天才が生まれない世の中になると、心が引き締まります。明治には我国においても天才が居たのは武士道と神仏や美しい四季への愛着の為であろうという藤原先生の他の著作での意見にも、この物語を読んだ後に強く賛同できました。
教科書では数式でしかないものにもその裏にはドラマがある。これはそのドラマについて書かれた本である。この三人の生き様には心にくるものがあった。不幸な目に遭いながら数学に没頭していく者たち。数式の裏に隠されたドラマを味わいたい人にお勧めです。