旅に出る際、皆さんは何をきっかけにしますか?<BR>本の一説をきっかけに旅に出たくなる、池澤さんの紀行文にはそんな力がありますが、「明るい旅情」は特にその魅力にあふれています。<P>筆者が旅先で体験したこと、その場に在って感じたことや見聞きしたことが中心に書かれているのですが、その瑞々しく清々しい語り口は読者である私たちに、その土地の空気感を伝えてくれ、まさしく、明るい旅の情景を追体験させてくれます。そして、どこかに行きたくなる気持ちがフツフツと湧いてきます。<P>この夏、旅に出る人も、予定のない人も旅の先達になる一冊だと思います。
池澤夏樹は、芥川賞作家であるが、紀行作家としての面もあり、ハワイイ紀行では、JTB紀行文学大賞を受賞した。紀行文を自分の仕事の柱のひとつとしていると言ってよいと思う。<P> 著者が1990年以降に、各種雑誌に発表した紀行文を1冊に集めたものが本書である。アジア・カリブ・沖縄・欧州と広い地域に旅した印象を18の短編で画いている。単なる旅行記ではなく、小説でも書くかのような文体で話が展開されており、池澤ファンにとっては、まさに「紀行エッセイの逸品(カバーより)」となるだろう。<P> 本書に書かれている旅は、池澤作品の基調となった旅と思われる。エッセイの内容自体は、さほどすごいという印象はないけれども、読書中は手放しがたい感じがした一冊である。池澤作品の原点を感じたためかもしれない。