残酷に哀しく、だけれども人間味の溢れる江戸の名も無き人々の物語。宮部さんの鋭く淡々と描くその語り口調だからこそ、人々の情緒が生きて伝わってきます。いろいろ考えちゃいますねー。私は「神無月」と「紙吹雪」がお話の中では好きです。
12の月に仮託された12編の短編。怪異あり、人情もの、人間ドラマあり・・・三人称もあれば、商人が古物商、はたまた母親が娘に話す昔語りの形式など、語り口も様様で一編一編が丹念に語られていく。<P>(本書の名前や文庫の紹介を読むと、怪異ものの短編集かと誤解してしまったが、そうでない話のほうが多いし、また怪異ものではない話のほうが余情があってよい。余談)。<P>宮部みゆきの手になる江戸ものを読むと毎回感心するのは、江戸の庶民の生活というものをよく活写していること。長屋住まいの職人から、商家の主の話、奉公人の話。生活、しぐさ、語り口、習慣、などよくもまあここまでと思う。<P>師走の町に紙吹雪を降らせる奉公娘の悲壮な思いを描く「紙吹雪」、病弱な娘のために年に一度だけ押し込み強盗を働く畳職人とそれを追う目明しを描く「神無月」、辛くて自殺しようとした奉公人が出会う首吊り人の姿をした奉公人の神様を描く「首吊り御本尊」などことさら印象的だった。
今まで読んできた宮部みゆきの作品のように、<BR>どきどきさせられる内容ではない。<BR>が、ほんのり感動させられる作品たちであったと思う。<BR>文章はさすがで、読みやすかった。<BR>変わった書き方をしているものもあり、そういった面でも楽しめる短編集。