塩野さんの描くカエサルは魅力的です。そこには多少は筆者の想像も含まれているのですが、彼の書き残したもの、彼の業績、華やかな女性関係を考えれば、人をひきつける魅力的な男でなかったはずがないのです。そのせいか、カエサルが登場する巻は、筆者の筆もひときわ活き活きとしているようです。<P>ローマ史に全く関心のなかった私でも、これは面白く読むことができ、ついでに他の巻にも手を出してしまいました。<P>塩野さんの作品を読んで思うのは、彼女が昨今の歴史家とは違って、人間に対する深い洞察に基づいて記述なさっているということ。だから、想像が混じっていても彼女の描くカエサル像にうなずける。<P>「歴史しか興味がない」といったいわゆる専門家(または歴史オタクと言うべきか)とは違って、歴史以外の幅広い知識を基に、きちんとした日本語で記述なさっていること。だから面白いのです。<P>大枚はたいて全巻買っても、損はありません。
ローマ史シリーズを書きついでいる著者がこのシリーズの中で見せる語り口はなんだろうと常々思う。歴史小説という体裁ではない、かといって無味乾燥な歴史書にはならずに、ローマ時代を読者の目の前に映し出すように活写していくこの文章。登場する諸人物が生き生きと描かれていく様は毎巻驚嘆する。<P>これまで年代を追っていく編年体方式で記されてきたローマ史は、ここでスタイルを変え、カエサルの出生から筆を始める。本巻では、後にローマを共和制から帝政へ大きく舵を切らせることになるカエサルの、前半生を描く。<P>ガリア戦争で見せる部下思いの統率力と決断力にあふれる指揮官、多数の女性との浮名を流したプレイボーイとしての一面。老獪な元老院の向こうをはって丁丁発止やりあう政治家としての一面など、カエサル像をあざやかに切り取り描いていく手際は見事。<P>カエサルを書きたいがために、ローマ史を描き始めた、という著者のいうとおり、ボリュームたっぷり読み応えもたっぷりだが最後まで飽かせない。
生き生きと描かれたカエサルの魅力に溢れた素晴らしい作品だと思います。卓越した政治家でありながらも軍人、文章家、さらにはコピーライターとしても一流の腕前を発揮。おまけに妬まれるほどのプレイボーイ!歴史家のモムゼンいわく「ローマが生んだ唯一の天才」。 <P>国家組織としての老巧化に直面していたローマを見事に立て直したの彼の活躍には今この時代を生きる私たちにとっての多くのヒントがかくされているのではないでしょうか。凡人が天才を真似ることの難しさは歴史が証明してくれてはいますが、歴史に学び過ちを繰り返さないようにすることは決して不可能ではありません。そのようなことを少し意識して読んでみるとこの作品はより一層輝くのではないでしょうか。