ローマ人の物語〈9〉― 賢帝の世紀 みんなこんな本を読んできた ローマ人の物語〈9〉― 賢帝の世紀
 
 
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ローマ人の物語〈9〉― 賢帝の世紀 ( 塩野 七生 )

毎年一冊の割合で出版されている塩野七生の「ローマ人の物語」も本書で9巻目となる。<P>8巻目の最後では、ネルヴァ、トライアヌスの二人の賢帝についてふれられていたが、その記述は意外とあっさりしたものだった。今回はそれに継ぐ三賢帝、即ちトライアヌス、ハドリアヌス、アントニウス・ピウスの3人の賢帝が主人公だが、先の二賢帝から一転して、著者の記述は詳細でしかも温かいものだ。<P>それは、この三賢帝が五賢帝の中でも特に優れていると評価が高く、ローマ帝国がその版図を最大にした時代のまさに絶頂期の皇帝であることに拠る。<P>賢帝の時代とは、即ちローマにとっての平和が築かれ、維持された時代である。平和の安定の時代とは歴史を物語として語る場合には決して素材として面白い時代ではないかもしれない。<P>しかし、著者は実は淡々として平和と安定を実現するために、これらの三賢帝がどのような施策を施したかを、鮮やかに描きだし、又、賢帝といわれる人々のその人間性に肉薄することによって、三賢帝の時代を、面白い物語として描き出した。流石の手腕ということができよう。<P>ローマの平和の礎となったのは、ローマ帝国が常に「安全保障」「国内統治」「社会資本の整備」に細心の注意を払ったからだといわれている。<P>国内統治の目的で行われたユダヤ人のエルサレム追放もこの時代に起きているわけだが、それが、その後2千年のユダヤ人のが「流浪の民」となった原因であること又、ローマ法の大幅な改編がなされたことなどを考えると、この時代のローマ史が、現代に与えている影響も実に大きい。<P>「平和と安定の維持」という命題は、現代の政治家にとっても大いに参考になるはずだ。このことを含めて「歴史に学ぶ」という言葉が、この「ローマ人の物語」を読むたびに、思い起こされる。

”ローマ史”そして様々な皇帝の一般的な評価を鵜呑みにせず、原資料を使って丁寧に、しかも時には女性の視点から大胆に再構築して書く彼女のスタイルは、たとえ非常に原資料が少ないこの「賢帝の時代」でも見事に生きている。<P>ただこの本はこの本一冊で評価するよりやはり「ローマ人の物語9巻」として評価する方が正しいとのでかはないかと思う。興隆を続けてきたローマとその哲学がこの巻での一つの頂点を迎え、そしてこれから始まるであろう衰亡への第一歩をも予感させるこの巻は全15巻と言われる彼女の壮大な連作の中でも大きな意味を持つと確信している。

中年男性の絶大なファン層を持つ七生さんですし、ローマ人シリーズの固定顧客がいるので、自然にベストセラーになるのでしょう。この本を単品としてはなかなか難しいのでしょうね。それは七生さんの筆の力の問題と言うよりはテーマ自体の問題でしょうね。あと七生さん自身も言ってますが、原資料の不足ですかね。でも最近感じるのは、七生さんの書き方がノンフィクションにこだわるあまり、七生さんの想像力で補われる部分が少なくなってきているような。もっと小説的にしてしまっても良いのでは。

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ローマ人の物語〈9〉― 賢帝の世紀年に1冊のペースで書き下ろしているこのシリーズ。今回はローマ時代の「五賢帝」のうちトライアヌス、ハドリアヌス、アントニウス・ピウスの3人を取り上げている。トライアヌスは、ローマ帝国初の属州出身の皇帝であり帝国の版図を拡大する。ハドリアヌスは、トライアヌスが拡大した帝国内をくまなく巡察し統治システムをたて直す。最後のアントニウス・ピウスは帝国内の政治を充実させ、治世者というよりも帝国の父親役を見事に演じきった皇帝である。 <br>おもしろいことにこの巻は著者の意外な愚痴が導入となっている。前々作の『悪名高き皇帝たち』に列記されていた皇帝たちとちがって、「賢帝」たちに当時のローマ人自身が心底から満足していた。それゆえに同時代に生きた歴史家タキトゥスたちが書く動機を失い、史料を残していないことを著者は嘆いてみせる。とは言いながらも、当時のローマ人が「黄金の時代」と言った時代を生み出した皇帝たちの治世の手法、人格、思考などのさまざまな側面を、残された史料から見事に再構築している。 <br>そのひとつにトライアヌスの皇后プロティナが若きハドリアヌスを「可愛がった」ことについて、多くの歴史研究者が実際の関係を探ろうとして失敗しているという記述がある。それに対して塩野七生は、10歳は年上の女性が年下の男に「弱くなる」条件を提示し、2人の間に肉体関係はなかったと断言する。このくだりの説得力と筆述はまさに本書の醍醐味である。そしてトライアヌスの章の最後で、その肖像への語りかけに著者の最大級の愛情を感じる。(鏑木隆一郎)
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ローマ人の物語〈9〉― 賢帝の世紀