川上弘美が1998年から2003年まで小説新潮に掲載していた短編を1冊にまとめたものです。<P>短編と言ってもニシノユキヒコという、あまり現実にいなさそうですがよく読むと意外とまわりにいそうな、<BR>少し気弱な現代的な男性を軸に彼に関わる少し強い女性たちを描いています。<P>ニシノユキヒコに振り回される女性、ニシノユキヒコを振り回す女性。<P>深く関わりたい女性、関わりたくない女性。<BR>いろいろな女性が自分の持つ現実の生活と、つかみ所のないニシノユキヒコとの間で揺れ動きます。<P>ニシノユキヒコを描いているようでいて、彼にかかわる女性たちの方をリアルに魅力的に描いているような感じがします。<P>渡辺淳一の「阿寒に果つ」は、阿寒で自殺を遂げた天才少女画家に関わり振り回される男性たちの話でしたが、<BR>比べて読んでみるのも面白いかも知れません。<P>男性の方がロマンチストなのかなと思ってしまいますよ。
TV「王様のブランチ」で紹介されたのを観て「何か、私の彼もあんな感じ・・・」と、少しの悲さとドキドキをもって本を手にしました。<BR>「男女の」というより「人間として」の信頼関係を作ることのできないニシノ君、人を受け入れてるようで拒絶してる「優しさと冷たさ」が、やっぱり私の彼と似てたかもしれない。<P>・・・何故、付き合ってるの? 理由は、この本の中に。わたしはどの彼女に近いでしょう?
十人の女性の語り手による一人の男性の物語ということで、どれもあじわい深いものがありますが、やはり中途半端というか、奥行きがない、といえるかもしれません。もっとも、ある種の「深み」を犠牲にしてひとりの人物の多面性を書くことを選んだからこそ、このような物語が出来上がったのでしょう。狭い観点から無駄に長く書かれるより、すっきりしていて、後腐れがないのにかすかな余韻があり、こういう小説もいいな、と思えました。<P>主人公(というのは一面的か?)はあきらかにいわゆる「プレイボーイ」なのですが、彼に共感するにせよ反感を持つにせよ、その思い入れは湿っぽいものにはなりません。これも語り手が分散しているため、男の確かな人物像がみえてこないからです。ゆえに、小説にできるだけ感情移入を求める方には、すこし物足りない印象があるかもしれません。反対に、登場人物への過剰なコミットメントを毛嫌いする読者には、とてもおすすめできます。