森博嗣は趣味が良い。ちょっとぐらい悪趣味が混ざっていた方が小説家としては続く。けれど、彼はビジネスで小説を書くと割り切っていて、そのお金を自分の趣味に使うと決めて書いていた。だから、この本を読んだとき、ようやく一つの区切りがついたのだと知って、良かったと思った。<P>その趣味のよさが良く出ているのは、やはりその日記であり、そしてこうした「趣味」の本である。その意味で、ぜひとも読んでほしい。中島義道にも通じる、自分の世界を守るアクションがこの本には息づいている。
この本はいわゆる『森ミステリィ』ではない。<BR> <BR> ―個人としての森博嗣氏が1つの新しい建物を製作、創造する過程を事細かに綴った『森記録集』である。<P> 内容として>施工主:森氏と、建築家:阿竹氏の間の電子メールの上の会話記録/製作過程における各々の時点での思考や意見を綴った記録/ガレージ製作部レポートと銘打った写真付の行動、製作等の過程記録/等がメインとなって収録されている。<P> ドキュメントとしてはかなり面白く、それぞれの分野のプロフェッショナルな意見の応酬はとても興味深く読むことが出来る。<BR> 自信をもっておすすめします!
私は森さんのミステリィやエッセイに現れる彼の哲学が大好きなものですから、森さんが何を大切にし、何に価値を見いだしているかを改めて知ることのできるこの本には、待ってましたの★5です。<P>自分のガレージを建てるのを長年夢見ていた森さんが、土地を買い、貯金もため、趣味の模型やコレクションに占拠される書斎に根をあげ、満を持して、ガレージ建設に取り組むことになりました。彼が欲しいのは、車を格納するだけのガレージではなく、趣味の工作ができ、模型飛行機が飾れ、作家としての執筆活動もでき、そのうえで車を風雨に晒さずにすむ、趣味のための建物です。昨今の住宅雑誌やカタログに見目麗しく登場する、とってつけたような最大公約数としての「ハウス」には興味はない、という意味において、「アンチ・ハウス」でもあります。個性的な作風を持つ同僚の建築家(阿竹さん)に、設計と施工管理を依頼します。<P>森さんは、設計の実績がないとはいえ建築士の資格を持っているし、お父様も工務店を営んでいる。勤務先は大学の建築系研究室だし、建築学会にも所属する。専門的な知識には事欠かない。そんな彼が最もこだわったのは、風致地区の形骸化されたルールに異を唱えることと、予算の倍以上にふくれあがったコストを抑えること。役所や設計者を向こうに回し、大切なことは何であるかを問いかけ、最適化することを求める、不器用なまでに揺るがない森さんが顔を出します。何にお金を払うべきか。何に価値を見いだすべきか。曰く、「結局のところ、“住宅の価値”とは、その家の“主人の価値”なのである」