中国・明の時代の国力が圧倒的なものであった事を当時の資料に基づいて解説している。<P>最近では、18世紀以前の世界においては中近東を含むアジアこそが先進地域であったという指摘がなされている。この本の題材となっている鄭和の大遠征も(やや時代は遡るが)その一つの証左とも言えるだろう。バスコ・ダ・ガマがようやくインドに辿り着いた時の人員はわずか170人、対して鄭和の遠征は2万7千人。この格差を考えれば、鄭和が欧州に足を踏み入れなかったのは、(技術的要因というよりも)当時、欧州が後進的で足を伸ばす価値もない地域と認識されていたという事が推測され得る。<P>この本は、当時の中国における背景や渡航の事実についても要領よくまとめられていて非常に読みやすかった。
この本の中で著者は大航海時代という西洋史の用語を交易圏の拡大してとらえ、ヨーロッパ人による「大航海時代」は世界の交易圏の統一に至る、ひとつの段階にすぎないという。第一次、第二次大航海時代という具合に交易圏の拡大が語られる。<P> しかし私は、この用語をこのように使うことには抵抗を持つ。なぜなら鄭和の航海とヨ-ロッパ人の航海には性格の違いがあるからだ。鄭和は明帝国の威光を知らしめるために大旅行に出たが、彼の航海したのはインド洋交易圏という古くから知られた海であった。それに対し、「大航海時代」のヨーロッパ人が航海したのは彼らにとって未知の世界である。帆船にとって風と海流の流れに関する知識が航海の大前提である。<P> また大航海時代によって世界の海がひとつになったわけであるが、その後20世紀まで、その海を縦横無尽に航海する能力を持っていたのがヨーロッパ人だけであったことを忘れてはならない。インド航路が確定されたといっても、アジアとヨーロッパの相互移動は起こらなかった。すべてはヨーロッパ側からの一方通行であった。これを単純に交易圏の拡大と呼ぶと問題があるだろう。 そこを除けば全体的に面白い。その偉業に比べ少なすぎる記録をもとに著者が推測する鄭和の生い立ちや内面は親しみが持てるし、地図を片手に南海交易の様子が説明される部分を読めば自分が旅をしている気分になるだろう。
いやー、驚きましたよ。この内容。知識としては知ってましたが、アフリカまで行ってたとはね。しかも、その発起理由がいい。中国歴史小説作家 安能務さんによる「作品のノリ」のまんまです。ほんと、知る喜びを感じます。幸い、私の世界史教諭は非常に楽しい授業だったので、その延長線上でこの本は楽しめましたが、現役の高校生諸君にも勧めたい逸品です。