伊藤博文を巡る政治抗争を主に情報伝達という観点から明らかにしようとしたものであるが、その試みは成功したとは云いがたい。<P>冒頭に情報の伝達手段の用途や速達性等が論じられているものの、本論の政治抗争の分析においては、その情報伝達の形態が決定的な影響を及ぼしたというような記述や内容はなく、これまでの政治抗争を描いたものとほとんど変わらないような印象を受ける。<P>そうした意味において、政治史的・歴史的考察を欠いてしまっているので、この中心的なポイントが展開できないとすれば、単なる歴史的事実の羅列になってしまっているといっても過言ではない。<P>条約改正期の帰化法をめぐる抗争も出てくるが、国籍史研究者としては、単なる政争の道具という内容しか触れられていなかったの!極めて遺憾である。<P>しかし、内閣機密費の部分は面白かったが、それは、本書が意図する情報伝達の問題というよりは政治史上の面白さであり、ここでも本書の目的が成功したとは言いがたい。