肥沃な黒土の穀倉地帯、旧ソ連で最大の重工業地帯と恵まれた環境にあったが故に、逆になかなか独立国家を確立できなかったウクライナ。こうして見てみると、ウクライナという地域で起こった数々の事件のヨーロッパ史における重要性を再認識できると同時に、ウクライナの歴史はロシア・ソ連の歴史そのものであったと確信させられます。著者の方は現役大使の方で、文章も平易で記述のバランスがよく気軽に安心して一気に読めますし、新書の特性を生かした好企画だと思います。ウクライナに関心ある方、旅行を予定してる方、ちょっとでもロシアに興味のある方にも、一読をお奨めしたい一冊です。
インド・ヨーロッパ語族の祖地のひとつと推定され、古代にスキタイ民族が活躍したウクライナの地。ロシアを建設したのはヴァイキングのルーシーであると言われているが、彼らはビザンチンやイスラム世界と交易するためキエフを根拠地に選び、それがキエフ・ルーシーと呼ばれる国家を建設することになる。ところがモンゴルの侵略によってキエフ・ルーシーは滅び、その後のロシア史はもともと北方の辺境だったモスクワに移り、かってキエフ・ルーシーと呼ばれた地それ自体が「辺境」の意味をもつウクライナと呼ばれるようになる。だがゴーゴリや先祖にウクライナ人を持つというドストエフスキーのみならず、ロシア史で活躍したウクライナ人は数限りない。ソ連邦崩壊によってウクライナは独立し、東欧の大国!して一躍脚光を浴びることになった。なおイスラエルの指導者の多くは、このウクライナに住んでいたユダヤ人の移民の子孫が多いことを付言しておきたい。
近年までロシア史から独立して「ウクライナ独自の歴史」が語られることの少なかった世界に焦点をあてた良書です。<P>従来「キエフ・ルーシ公国」時代には関心がもたれていたものの、その後はモスクワ公国へと「ロシア史」の重心が移ってしまい、「小ロシア」などと記されて余り注目されることのなかった此の地域について分かりやすく述べた通史です。スキュタイの昔から中世「ハザール可汗国」の時代や「リトアニア・ポーランド」の時代、コサツクの活躍した時代など、この地域に盛衰を繰り返した諸民族・国家の史話をまとめたオススメ本です。関心のある方々は是非とも一読あれかし。