マスコミや、経済雑誌でよくいわれているような新自由主義的な主張(=人々が必死で生きていかざるを得ないように、社会的セーフティネットを取り外して後がない状況にする)に対して、どこか素直に納得できない部分があった。<P> しかし、この本に書かれてあるように社会的セーフティネットをサーカスの綱渡りのセーフティネットと例えれば、そのセーフティネットを取り外すことで演技者は真剣に演じるようになるが、失敗は即、死につながるが故に、リスクの高いアクロバットは演じられなくなるというたとえは、実際の社会においても後ろ向きで冒険することをおそれがちな現在の状況をうまく表していると素直に納得させられる。確かに、失敗ができない社会であるならば人々は消費を控え、貯金をし、そしてリターンも大きいがリスクも大きいような職を選ぶことはしなくなるだろう。<P> 現在、セーフティネットと呼ばれているものはかつては家族、あるいは地域コミュニティによって提供され、第二次大戦以降を中心に国家によって供給されるようになったものだが、産業革命以降の大量生産、大量消費型の工業経済、ひいては市場経済によってコミュニティが破壊され、その替わりであった国家もまた最適な供給ができなくなってしまった現在、この役割は地方自治体が担わなくてはならないと思う。もちろん、福祉・医療・教育などのに代表される対人社会サービスなどで、直接的に供給することも大切であると考えられるが、それとともに住民自らが自らの街のために主体的に行動することをバックアップするような行政も必要であると考える。この点についても新自由主義とは異なり、そこに生きる人間を重視した社会システムのあり方を提示している本書は現在の社会のあり方に疑問をもち新たなシステムのあり方を求めている人には大変参考になると思う。<BR> 是非多くの人に読んでもらいたい。
工業社会から知識社会への移行、そして経済のグローバル化は地方を直撃した。今や日本の地方経済は中央政府による公共事業によってかろうじて延命しているに過ぎない。本書はこういった地方経済の状況とここまでに至った歴史的経緯を的確に描き出し、そして処方箋を提示する。<P> その処方箋とは地方自治体に財源を持たせ、地域住民のニーズを満たすことのできる地方自治体を作っていくことである。知識社会では地域での生活が充実することが、その地域での生産活動を活性化させることになる。これまでのようにインフラを充実させることで工場を誘致するのではなく、環境の改善などを通じて生活しやすい空間を作っていくことが地域の活性化につながるのである。そのためには地方自治体が積極的な活動を!!!っていくための資金を自らの力で調達できる体制が必要になる。今の日本にはまだその体制が整っていない。以上から、筆者は地方に積極的に財源を委譲していくことが地域活性化の方策であると主張するのである。<P> 本書はこういった筆者の問題意識と政策提言に基づいて現行の地方財政について詳細に論じた書物である。地域間の格差や税制の問題などについてもコンパクトにまとめられており、筆者の政策提言も非常に説得的である。地域経済を考える上での良書だと思う。
「地域再生」を念頭においた地方財政改革提言の書.一章から三章は財政思想史.「市場」の誕生から現代的な中央集権的福祉国家の限界までを要約している.四章は80年代日本財政の総括.都市と地方の格差拡大傾向を指摘.残る章で比較制度的視点を加味しつつ,財政制度改革による地方再生案が提言される(著者は財政学の専門家である).<P>全編を通して,著者は「地方」と「地域」をあまり区別せずに使用している印象を受ける.<P>著者が「地方」「地域」という場合,行政上の単位としての「地方」自治体という意味で「地方」を使用していると同時に,都市―地方という意味での「地方」,即ち「田舎」という意味で「地方」を使っているニュアンスが感じられる.要するに,著者が「再生」の対象としているのは,典型的な田舎の地方自治体とそこに住む人々の生活(公共事業しか雇用がない!)であると思う.<BR>著者はそういった地方自治体に財政や政策面でイニシアチブをとらせることが「地域再生」に必要だと考えているようだが,典型的な田舎の地方自治体にイニシアチブをとらせること「だけ」を強調すると,結局(例えば,公務員の採用が縁故採用で決まるような閉鎖的な田舎では)地方権力者の圧政につながらないだろうか?<P>地方(地域)に主導権を持たせるべき,同時に地域間格差も是正し平等を確保すべき,という著者の主張はもっともだ.<P>が,同時に,著者の制度改革に倣った場合,閉鎖的な「地域『内』」において,個人の平等をどのように確保すべきか,という点にも言及して欲しかった.著者の改革案は都市の地方自治体には妥当だが,閉鎖的な農村部の地方自治体にはそのまま適用できないようにも思える.その点を除けば秀逸.