この本は、日本の製造業最強の会社、トヨタ自動車を例に能力開発競争<BR>、つまり工場での生産性向上の根源とは何かに迫ったものである。日本の自動車の弱みであるブランド力はおいておいて強さの秘密である現場の改善能力の根源とは何か?またなぜ他の製造業も同じような現場での改善を行ってきたのに自動車だけが競争力で世界を席巻できたのかを<P>モジュールなどの産業構造の比較から紐解いてゆくなど興味深い話題満載である。<BR>これから就職活動をむかえ、自動車業界に興味のある方は一読を薦める。
著者は、企業のパフォーマンスの構造を(1)組織能力→(2)深層の競争力→(3)表層の競争力→(4)利益パフォーマンス、という因果関係により構造化する。<BR>(これは、まさに、バランス・スコアカードの(1)学習と成長→(2)ビジネス・プロセス→(3)顧客→(4)財務という関係と同じである。)<P>著者の主張は、日本自動車産業の強さは、(1)組織能力、(2)深層の競争力にあった、とするものであるが、分析の妙味は、なぜそれが可能であったか、ということを、インテグラル(摺り合わせ)・モジュラー(組み合わせ)、クローズ(囲い込み)・オープン(業界標準)というフレームワークで描きだした点であろう。つまり、自動車は、基本的に、インテグラル・クローズであり、だからこそ、!組織能力や深層の競争力といった「能力構築競争」が起きるというものである。<P>この本を書き終えるのに10年かかったという。読み応え充分である。新書でありながら、ハードカバーの単行本に相当する内容の深さであり、お買い得感も強い。<P>自動車産業の方のみならず、日本のメーカーにお勤めの方や経営者・マネージャー層の方にお薦めである。
いまさら紹介するまでもなく、本書の著者は自動車産業研究で世界レベルの研究者である。本書は20年にわたる研究成果を、能力構築競争という軸で再構築したものである。能力構築競争とは、競争優位の源泉を組織能力の累積進化に求める考え方であり、いわゆるリソース・ベース・ビューと類似のものである(第2章)。著者はそれに留まらず、もの造り組織能力の中身を具体的に解明してみせる(第4章)。そして、わが国のメーカーがいかにして組織能力の累積進化を遂げてきたか(5~6章)、欧米のメーカーがいかにしてわが国との組織能力ギャップを埋めてきたか(8章)を説明する。そして最後に、組織能力競争の行方を展望する(10章)。例によって、著者の豊富な知識、工夫された図表、緻密な論理構成には!圧倒される思いである。そうして出来た本書が面白くないはずはない。と言いたいところだが、著者が提示する結論に新鮮な驚きは乏しい。組織能力という概念そのもが既に陳腐である。トヨタの強みは組織能力の累積進化能力にあるという主張は、その通りかも知れないが、今さらという気がする(197頁)。そうした思いは、10章でさらに強くなる。本書は全体で400頁近いが、読者が最も関心を持つであろう「将来どうなるか」を書いた10章は50頁に過ぎない。新書だからこそ、議論の厳密さを多少犠牲にしてでも、将来展望(10章)をメインにして書いて欲しかった。