とにかく集中力のいる作品。斜め読みを許さず、一語一語確実に追っていかないと理解できない。著書による解説も、決して読者に対して親切ではない自分の作風について、どこか言い訳がましいところがある。<P>とはいえ、現代においてこそ、暴力をテーマにした小説とくに映画は溢れているものの、本作がSFヴァイオレンスの先駆的・古典的短編集であることを忘れてはならない。そのあまりに苦い結末インパクトは今でも衰えないがゆえに、一読の価値はある。<P>近未来世界において、暴力が隅々まで浸透していく。その結果、誰もが突如暴力に巻き込まれるし、誰も傷つかずに暴力を回避する手段などなくなってしまう。そもそも、これまでも、これからも、この世に暴力をなくすことのできる神などいないのだ。このような神なき情況を、著者は喜んでいるのではないか、と思うほど、SFファンタジーとしてクールに描き出す。<P>ちなみに、この本のタイトルに聞き覚えのある方は、テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話のタイトルが、「世界の中心でアイを叫んだけもの」であったことを思い出されるとよい。
本短編集の冒頭に著者による解説(エッセイ?)が掲載されている。それを読むだけでやや食傷気味に感じるのは私だけではあるまい。巻末の解説にも「あれでもエリスンの前置きは短い方なのだ」というようなことが書いてある。作品についてあれこれ語りたがる作家なのだろう。<P>内容についてはあまり書くべきことが見つからない。短編集の性格上、いろいろな話が入っていて、それなりに楽しめた作品もあったが基本的には「プロット破壊のための実験小説」という感じ。確かに本書のような作品からいろいろな試みが出てきたのではあろう。しかし本を買い、それを鑑賞する立場に立つのが読者である以上、「実験」まで鑑賞する必要はない。<P>中途からは読み終えることのみを期待して読み進めた本だ。
この小説を読んでラストに辿り着いたとき、映画「セブン」を見終わった時のような感覚を覚えた。同じテーマを語っているという事ではなく、ラストでそれまでの伏線、断片の全てが符合し、テーマが昇華されるという点で似ていると感じた。七つの大罪のうちの最後が本来、正義である主人公の手によって果たされることで全ての人間が逃れられない業を背負っている事を表現した「セブン」に対し、この作品では、凶悪犯が、自分は世界中の人間を愛していると言い、その存在が最後に記念碑となることで何かを表現しようとしている。どちらも象徴的な作品だ。そして、この作品の意味するテーマは未だ僕には理解し得ていない。